あれからヤナさんは少しの間、私の体調を気遣うような連絡を何回かくれた。
 うれしくてテンポよくやり取りを繰り返すうちに、私たちは特別な用事がなくてもメッセージアプリを介して他愛ないメッセージを交わすようになっていた。
 ――これって、ただの仕事仲間から一歩前進したと思ってもいいんだろうか。

 季節は冬。新しい年を迎え、気が付くと『銀河戦隊ファイブスター』のクランクアップがすぐそこまで迫っていた。
 初めてのスーツアクター。わからないことも多くて全力疾走の日々を振り返りつつ、私の頭のなかにはあの日の恵里菜さんの台詞がこびりついて離れない。

『この番組の撮影が終わるのが一月でしょ。撮影が終わったタイミングで打ち明けようと思うんだ』

 今日を含め、撮影はあと二回しかない。
 つまり、ヤナさんと顔を合わせる機会もあとわずかだ。
 ヒーロースーツを着ていない時間も彼とコンタクトを取れるようになったから、ヤナさんへの想いはますます膨らむ一方だった。
 ヤナさんからメッセージが来るというだけで心が躍ってしまうけれど、彼のほうはこのやり取りをどう思っているんだろう。
 私が意識しすぎているだけで、彼にとっては何でもないことなのだとしたら、ちょっと悲しい。
 祈るように、あの公開収録でのできごとを思った。

 途切れ途切れの記憶のなかで、彼は倒れた私にいち早く駆け寄ってきてくれた。
 そして、私の目が覚めるのをそばで見守っていてくれたのだ。
 ヤナさんらしいといえばらしい。スターリーレッドのように正義感が強く優しい彼なら、きっと誰が同じ状況に陥っていたとしても同じ行動を取っただろうことは、想像に難くない。
 でも、ほんのちょっとだけ。それが私だったから、あんなにも心配してくれたのでは――と、うぬぼれてしまう。
 あの指切りや、額を撫でてくれた所作は、そういう意味なんだろうか?
 
 ……って、いやいや。早とちりしちゃいけない。
 何か言葉をもってはっきりと伝えられたわけじゃない。私が勝手にドキドキしてしまっているだけじゃないか。