そういうことがあってから、私はこの仕事と向き合うため、少しずつ考え方や行動を改めることにした。

 まず、今まで避けていた他のスーツアクターとの関わりを厭わないようにした。
 私のなかに無自覚のうちに存在していた、スーツアクターを軽んじる気持ちにようやく気付き、そういった思考を捨てた。
 これは、他のスーツアクター――伊織くんやつぼっちさん、恵里菜さんと仲良くなるにつれて無理なく改めることができた。
 というのも、彼らは全員私よりも芸歴が長く、スーツアクターとしての経験はもちろん、舞台演劇の経験も長かった。私のよく知る世界と知らない世界の両方を知っている彼らからは学ぶことが多く、接すれば接するほど尊敬の念が増していった。半年ほど経った今では撮影後の飲み会のあと、五人だけの二次会をやるほどだ。
 仲間たちを尊敬することができると、今度は顔の見えない自分の仕事にも誇りを持てるようになった。

『たとえ顔が見えなくても、スターリーレッドとして視聴者の目に焼き付けることができれば十分だし、やりがいを感じるよ。だってそれって、俺のアクションをカッコいいスターリーレッドとして認めてくれてるわけじゃない。役者冥利に尽きると思わない?』

 いつか、ヤナさんが言っていた言葉に、一言一句同意する。
 私の仕事は、スターリーピンクとして敵役を鮮やかに倒す演技をすること。
 ピンクというキャラクターのアクションを「カッコいい」と思ってもらえれば、それが正解なのだ。
 この手の番組に携わって初めて知ったのだけど、特撮ファンの人たちのなかには、ありがたいことにスーツアクターのファンもいる。放送が開始してからは、そういったファンの人たちから「このシーンのここがよかった」と感想をもらえるとやりがいを感じるし、また頑張ろうという気持ちになれた。
 ヤナさんのおかげで、私は徐々にこの仕事を面白いと感じるようになっていったのだ。
 彼は私の恩人。まさに悪の組織を倒して人々を救うスターリーレッドのように、私を救ってくれたヒーローそのものだ。
 そしてそんな彼に、私は恋をしてしまっていた。