――ヤナさんの手は、いつだって優しい。

 学生たちの賑やかな声があちらこちから聞こえてくる、安居酒屋の一角。
 私たち五人が座る丸テーブルに、店員さんが人数分のドリンクを運んできた。
 ヤナさんはそれに気が付くなり、率先してグラスを受け取ってそれぞれに配りはじめる。

「ビールは伊織くんとつぼっちさんね。で、青りんごサワーが恵里菜」

 ハキハキと通る声なのに、甘くて優しい。ずっと聞いていたくなる心地いい響きだ。
 スタッフと一緒だった一次会で結構飲んでいるはずなのに、ヤナさんの端整な顔はちっとも赤らんでいない。

「みのりちゃんはウーロンハイ」
「ありがとうございます」

 私はお礼を言ってグラスを手を伸ばす。
 そのとき、彼の指先に私のそれが一瞬だけ触れてドキリとした。
 それを悟られてはいけないと思い、表情を変えないようにグラスを受け取った。

「……いつも思ってたけど、歳の割におじさんみたいなの飲むよね」

 私の右どなりに座っている、ちょっとコワモテな痩せ型の男性――つぼっちさんが、私のグラスに視線を向けつつ、思い出したようにぽつりと呟く。

「少しでもカロリー抑えたいので。ほら、うかつに太れないじゃないですか」

 つぼっちさんのイメージでは、二十代前半の女性とは甘いカクテルを飲むもの、なのだろうか。
 お察しの通り甘いカクテルは大好物だけど、事情があって普段から糖分の多いものは避けている。
 こういうのは、普段からの小さな積み重ねがものを言うのだ。