「また良い小説があったら教えて。また来るよ。」



松田さんは

ほのかな優しい香水の香りを残し

本屋から出て行った。





彼女さんがいたこと。
彼女さんが入院してること。
その為に小説を買っていってあげてたこと。



そんなたくさんのことを知ったから、

松田さんが本屋に来てくれたのに
松田さんと話せたのに




私は全然嬉しい気持ちにはなれなかった。




それに、
私は松田さんに自分の名前も知ってもらえてないし、

進展どころか

単なる“本屋でバイトしてる子”
“自分が働いている店に一度だけきた客”でしかないんだ。


ショックだった。




まるで、もう会うなって神様に言われているかのように

松田さんはそれっきり本屋には来なかった。




また来るよって言ったのに。