『でも、白雪くんは人間でしょう?』
声が発せられたのか見紛うほど、静かに動いた唇。他意のないその逆接に戸惑った。
『人間、だね』
『私は、人が好きなんです』
『……ん?』
『愛おしくて、もっと知りたいと思う———他人を、知りたいと思うのです』
風が吹いた。
いまさら春の匂いを運んできて、そういえば、入学式のときは嵐が吹き荒れ極寒だったな、と思い出す。
おかげで式後のオリエンテーションは中止となり、豪邸と呼んでも差し支えない佐々木家で暖をとっていた。
いまの取り巻きを全員連れて。
『世の中には悪い人間もいるのに?』
『悪いだけの人も、良いところだけの人も、いないと思います。それに———』
微々たる空白。
一瞬だけ直線に結ばれた唇が再び開こうとする寸前、彼女の手が伸びてくる。
石化したように動くことができなかった俺は、ただ喉を鳴らして、その手が淡い髪に触れるのを待った。



