彼女は胸の前で両手を握りしめたまま『……全員』と呟いた。『みんなの名前、覚えています』と頬を赤らめた。
『え……え、全員って、』
『この文月高校、新入生のお名前は全て、覚えてきましたので……』
震撼した。桜色の唇を割った告白に、自分から退いた距離を詰め直した。
『え、マジ?なんで?』
『は、話せば長くなるのですが……簡単に言えば、野望のためです』
わぁぁ……恥ずかしい———言いながら、薄い掌が頬を覆った。
しかし、訊けば『友だちを作りたいから』という殊勝な野望で、俺は戸惑った。
『いや……名前覚えたからって、友だちは出来なくね?』
『———……そう、なの?』
横幅の広い瞳と覆われた頬から、色味が失せた。
……やっちまった。地雷かこれ。
戸惑った俺は、友だちとは『作る』ものではなく『自然となる』ものだと説く。
よほど衝撃だったらしく、しきりに何かを唱える姿にまた、距離をとった。



