序章を語る際。
一年前まで遡ると、「そんな前かよ」と決まって目を見張られるが、仕方がない。


彼女に毒を盛られた——否、視線を奪われ始めたのは、紛うことなく一年前からであるからだ。




『おはようございます』


一年前の五月。
木漏れ日のカーテンとともに下ろされた、柔い笑み。後頭部に感じた柔い感触。それすなわち、膝枕。


『おはようございます』

『○#△×□※⁉︎⁉︎』


高校一年を迎えたばかりの青年は、居眠りから覚めた瞬間、混乱を覚える。


青年、すなわち俺は、条件反射で飛び退いた。


いまさら思い出すたびに(もったいねぇ……)と何度も嘆きたくなるが、当時は彼女を “不審者” に宛てがい、怯えた。


『驚かせてしまってごめんなさい。白雪くんの寝顔に、子猫が爪を立てようとしていたもので、』

『……』

『違います、違いますよ。決して捕食の機を狙っていたとかではないんです……、あの、信じてください……』