「……可愛い」


無論、至福の(いとま)に介入する術も与えずにその口を手の甲で塞いだ。


「ちょ……どけてよ。女使い荒いわ」

「あー。すまん」

「うわー心ねぇー」


乱暴な言葉とは裏腹に、小原の頬は赤らむ。そして、呆れたように綻ぶ。


彼女の長い髪は、藤沢教もとい白雪何某のそれを模し、ミルクティ色に染まっていた。


天寧(あまね)ちんもそろそろ諦めなよ、白雪ちゃんのこと」

「ハァ?アタシは別にそんなんじゃねぇし……っ」

「わぁ。生ツンデレはじめてみた」

「使い手がこんなに身近にいるとは……」

「そういや天寧ちん、ちょっと化粧薄くなったよねぇ。藤沢のお嬢に影響された?」

「ち、ちち、ちがうしっ!別に、白雪のタイプに合わせたからとかじゃないし!」

「「「わかりやしぃー」」」


騒がしい背後。

しかしそれはBGMにすら成り得ず、小原がこちらを一瞥していることにすら気づかなかった。



「いつから、か」


と、いうのも。「いつから」を律儀に手繰り寄せていたからだ。


ああ———心から思う。あの日、天使を見つけた自分を心から崇めたい、と。