スノーホワイト・テリトリー



『さくら餅、良かったらどうぞ』


タッパーの中身に落ちた視線は、麗しいその瞳へ持ち上がる。喉を鳴らした。


『くれんの?』

『はい。食べましょう』


いや、それより名前……。


『———うまい』


俺の主張は自らさくら餅と一緒に呑み込まれる。


さながら、酒を交わして契りを結ぶ杯事(さかづきごと)のようだった。



『嬉しいです』

『……?』

『白雪くんとさくら餅を食べられるなんて、とても、』


小さな口に頬張られた餡が、唇に少しはみ出る。


『とても、嬉しいです』


掬い上げて舐めた横顔に、グラリ、視界が揺れる。


思えばこれが兆しだった。


『え、なんで俺?』

藤沢(ふじさわ)八重(やえ)、八重桜の八重、と書きます』


ああ、なんだ、覚えてたの。と、油断した。


『きっと同じ、“桜” が由来だと思うんです』



———白雪(しらゆき) 吉野(よしの)くん。




瞬間、青年は毒を盛られた白雪(スノーホワイト)嬢の如く、息の根を止めた。


と思えるほど、甘美な錯覚だった。