真っ黒なドレスが揺れるのをやめたのは、湖のほとりに辿り着いた頃だった。

アリスが【深緑の薔薇】にさらわれた場所だ。
リル・イニーネは俯いていた。


「皆、私が憎いのだな・・・。」


ぽつりと呟かれた言葉は、とてつもなく重かった。
鉛のように重く、湖の底に沈んでしまいそうなほど・・・。

アリスの咽喉は何かが詰まってしまったようだった。


「私の味方など、誰もいない・・・。
民も、ザックも、家臣も、お父様も、お母様も!

皆、エヴァの味方なのだ・・・。」


「そんなこと!」


「アリス、私はどこで間違えたのかな。

あれほど愛していた妹を、今はこんなにも憎んでいるなんて・・・。
何故だか自分でもわからないのだよ。」


今にも泣き出しそうな顔で、リルはアリスを見て呟いた。
その表情を見てアリスは胸が痛んだ。


リルは、苦しんでいる。


ただ単に妹を憎んでいるだけではないのだ。
心の中でなにか葛藤がある。


「リル、なんでそんなにエヴァが嫌いなの?
何かあったの?」


話の確信をつく。

しかしリルは蔭った表情で答えた。


「私にもわからないのだよ、アリス・・・。

何をきっかけにしてエヴァを憎んだのか。
何が私の腸を煮えたぎらせるのか。」


湖には柔らかな陽の光が差し込んでいた。