二人の様子を見ていたアリスは耐えかねて口を開いた。


「二人とも、知り合いか何かなの?」


一度顔を合わせた程度には見えないその口ぶり。
まるで昔から知っているような・・・。


「ザック、一先ず縄を解いてはくれないか?

何、ここから逃げ出そう等とは考えていない。
それにそこの兎の紳士のいる手前、逃げる事など不可能だろう。」


リルの言葉に納得したのか、ザックは体をきつく巻いていた拘束を解いた。



「聞きたいことは色々あるのだが、そこの娘と紳士は何者だ?
まさか【深緑の薔薇】とやらの一味ではあるまい。」


アリスはあからさまに嫌そうな顔をする。
このような盗賊共と一緒にされるのは御免だった。

不本意でこのような場所にいるというのに・・・。


「そいつらは湖でさらってきた。
お前を誘拐するのに使えると思ってよ。」


リルはすっくと立ち上がり、凛とした態度でザックを見た。


「何故、盗賊風情に成り下がりそのようなことをしているのだ。
くだらぬ男だな、全く。」


呆れたようにそう呟けばリルはアリスとハニーに体を向ける。

体から出る高貴な風格がリルを包んでいた。
アリスはその空気に呑まれまいとしっかりと足に地をつける。

気を抜けば足がすくんでしまいそうだった。


しかしハニーはいつもと同様、表情を一つも変えずにしゃんと立っていた。


「自己紹介がまだだったな。
我が名はリル・イニーネ。この国の姫君の一人である。

アリスと言ったか・・・。
娘よ、事情も知らずに公の場であのようなことをしてすまない。
さぞ驚き、恐れもあっただろう。」


厳格な中に見える慎ましやかな優しさに、アリスは心を打たれた。