そう願った時だった。

突然、天井の役割を果たしていたガラスが割れ、そこから何人もの侵入者がロープを下ろし式場へと降り立った。

式場は悲鳴で溢れかえる。


しかしガラス片で人々を傷つけないよう薄い光の膜の様な物が城内の人間を包む。


「ハニー・・・!」


きっとハニーの魔法に違いないと思った。
その名を呟くと、アリスの背後に温かな声を感じた。


「お呼びですか?アリス嬢。」


その声にアリスは後ろを振り返る。


「ハニー!!!」


音も無く現れたハニーはアリスを庇うように腕を回し、リル姫に元は杖だった剣の先を向けていた。


「ご無礼なのは承知の上。
しかしこのアリス嬢を傷つける人間は何人たりとも許せ得ぬのが我が運命。
喩え貴方が一国の姫君であろうとも。」


リル姫は咽喉元を逸らし、何食わぬ顔でハニーを見下ろしていた。
そこにザックが割って入る。


「野うさぎ紳士ぃ、困るねぇ。
大事な獲物に剣先なんて向けてくれちゃってさ。」


ザックはハニーの剣を上から押さえ、下げさせる。


「こんちわ、リル姫。
おれたちは盗賊集団【深緑の薔薇】。あんたを誘拐しに来たんだ。」


「は?」


その場にいる全員が腑抜けている瞬間、ザックはリル姫を担ぎ上げた。


「とっととズラかるぜ!お譲ちゃん、うさぎの紳士、逃げんぞっ!!!」


「ええっ!!!???」


「アリス嬢、お手をっ!」


ハニーの差し出す手を握り、アリスはザックを追いかけるようにして走り去った。