満開の薔薇を抱えて歩く様は、まるで天使か女神のようだった。
道行く人間は誰もが目を奪われ、その可憐な姿に振り返らずにはいられなかった。

その薔薇から香るかおりのかぐわしいこと。

花束を抱きながらエヴァは微笑まずにはいられなかった。


部屋へ持って行こうと思っていた矢先、城内の長い廻廊でリルの姿が見えた。
丁度、正面からやってくる。

エヴァは伏し目がちで歩くリルに走り寄った。


「お姉様!見てください、この満開の薔薇!
とっても綺麗でしたからお姉様にもお見せしたくて摘んで参りましたの。」


目の前の薔薇に、妹に、リルはちらと目をやっただけだった。
あとは興味無さげにわざと視線をそらしている。

何もかもが目障りに思えて仕方が無かった。


「確かお姉様、薔薇の花がお好きだったでしょう?
きっと今朝方花開いたばかりに違いありませんわ!
だってこんなに・・・っ!!!」


リルはエヴァの持っていた花を手で思い切り払いのけた。

花びらが辺りに舞い散り、エヴァは言葉を失った。


「私は、薔薇の花がこの世で一番嫌いだ。」


舞い散る花びらの中、冷酷な眼差しでリルは言い放った。


「貴様が摘んできた薔薇の花がな。」


床に散らばった薔薇の花を踏みつけるようにし、リルは去って行った。


エヴァは悲しげな目でその薔薇を見つめた。






もう、あの頃には戻れない―――。


そう確信してしまったのだった。