夜の帳が下りた頃、闇に紛れて烏が鳴き始めた。
空に星は輝いておらず薄気味悪い一夜だった。

一国の王女はそんな夜が好きだった。

しかし、この夜はそんなことに現を抜かしている場合ではなかった。



キングダムAの城の最上階には女王の間がある。

そこにある隠し扉の向こうには、彼女しか知り得ない隠し部屋があった。


暗闇を燭台を持って歩く。
石でできた階段に自らの足音が響き渡る。

蝋燭の光がぼんやりと光を灯す。


階段を昇りきると、そこには部屋とは呼びがたい小さな空間がある。
女王は四隅にある燭台に蝋燭の光を移した。

そして部屋にただ一つある鏡の前に跪いた。


「宵の君・・・どうかお姿を見せてください・・・。」


すると鏡の中に青白い炎が小さく灯った。
それは次第に大きくなり、勢力を増す。


「クイーン・ハートネス、何か御用かな。」


鏡の中から声がする。

クイーンはごくりと咽喉を鳴らし、それに応えた。


「全てご存知なのでしょう?意地の悪いお方・・・。」


炎がクスクスと笑う。


「意地が悪い、か。そうかもしれぬ。
しかし私はお前の口から聞きたいのだよ。

何故、選ばれし神子の捕獲に失敗したのかをね。」


クイーン・ハートネスの背中に冷や汗が伝った。