長い廊下を息を潜めて走り抜ける。
その度にアリスの心臓は早鐘を打ったようになる。

必要以上に精神力を必要とする為、かなりの疲労を伴った。
自然と額に汗が滲む。

そしてある曲がり角に達した時だった。


「野うさぎめ、私から逃げられるとでも思ったのか?」


アリスはビクッと体を震わせた。
この声、口調、紛れも無くクイーン・ハートネスのものだった。

しかしハニーは冷静沈着そのものだ。


「出て来い。貴様らは既に囲まれておる。
悪あがきは止した方がいいのではないか?」


ハニーは言われたとおり、廊下の角から姿を現した。


「ちょっと!ハニー!」


それに攣られてアリスも身をさらけ出すことになった。

出てこいと言われてのこのこと出てくるなど単なる馬鹿ではないだろうか?
最初はそう思ったが何か策があると信じ、アリスは口を噤んだ。

クイーンが言ったとおり、既に回りはトランプの兵隊だらけだった。


「貴様、全て見通していたのだろう?」


クイーンが口角を上げる。

それに負けじとハニーも余裕の目笑みを見せた。


「お前のような目狐が宵の勢力に寝返ることなど容易に想像できること。
私はそこまで浅はかな人間では無いわ。」


「人間?野うさぎ風情が生意気な!」


「私はお前を利用しただけに過ぎん。
それは貴様とて同じだろうに。ならば同等ではないか。」


クイーンは持っていた装飾的な杖を床に叩き付けた。


「黙れ!貴様のような獣と同等とは笑止千万!!!

貴様らとっとと捕まえてしまえ!
野うさぎは首だけにしろっ!“宵の君主”への土産だ!!!」


クイーンの言葉と共に周りのトランプ兵が一斉に襲い掛かってきた。