「みんな席に座ったか?」

と担任の男の先島先生が呼びかける。先島先生は体格が良くて、面白くて、生徒からとても慕われている先生。

そんな中でガラッと教室の後ろのドアが開かれた。その音に周りの子たちもチラッと見る。

「兎田、お前遅いぞ!遅刻になっちゃうぞ!いいのか」

「いいよ〜、先島先生。…てか、俺まじ遅刻じゃんか」

先島先生の怒りは相変わらず、優しい。その注意に兎田くんは不満なのか、自ら遅刻だと言った。周りの女子も男子も和やかに笑う。

「まじ紳おせーよ」

とクラスのムードメーカーの奈義 みつるくんが立ち上がって、席に着く兎田くんの背中をパシパシッと叩いた。そんな奈義くんに兎田くんは「おせーよな〜」と笑って言い返す。それと兎田くんは先生に言った。

「先島先生さ、優しすぎだよ。もっと叱ってよ。じゃないと俺、遊びが増えちゃうから…」

と兎田くんは意味ありげな言葉を先島先生に言い、席に座った。

兎田くんは前から2番目の席で奈義くんの左隣りで真ん中の方の席。私は窓側の前から3番目の席で兎田くんがよく見える席だ。

兎田くんは奈義くんと会話をしている。奈義くんは楽しげだが、兎田くんは乗り気じゃないみたい。そんな兎田くんの姿にまたも保育園の時のしんくんと重なって見えた。

私は心の奥で、兎田くんだったらいいななんて思っちゃった。なんでかな…。兎田くんなら私を受け止めてくれそうな雰囲気を持っているように感じたの。由美ちゃんにはそんなこと思ったなんてことは言えないけど…。