対戦相手が長考に入った。
その分、俺も考えることができる。
何パターンも次にくる手を考える。
対戦相手は俺の将棋を研究しているのか、少々やりずらい。
でも、俺が負けるような相手ではない。
それは今の手を見ても分かる。

十五分くらいたっただろうか、対戦相手がようやく戻ってきた。
見上げる必要はない。
だって俺に必要なのはこの盤面だけだから。


「お待たせしました」


うん。
待った。

でも、いいんだ。
その分俺も考えたから。


「…ぇ」


彼女が指した手は俺が考えてもいなかった手。
悪手とも思える手。
何を考えている?
どうやってここから逆転しようというのだ?
それぐらいの手だ。
長考の後の手だとは思えない。
その考えから思わず小さな声が漏れる。