「今日はここまでだ」

「ありがとうございました、先生」


わたし、渡部美菜(わたべみな)は週に1度お琴を習っている。

お琴に出会ったのは高校の時。

筝曲部の演奏を聞いて、その音に魅力を感じたのがきっかけでこうして習うようになった。


そして、お琴教室の先生がその時の部活の部長だった本田琉生(ほんだるい)だった。

ここでは彼のお父さんも先生としてまだ現役で働いているから、わたしはお稽古の時「琉生先生」と呼んでいる。


「美菜、ここ数年でかなり上達したよな」

「ほんとですか?ありがとうございます。先輩……じゃなかった先生の教え方が上手だからですよ」

「もうお稽古終わったんだから、先輩でいい」


先輩はあの頃と全く変わっていない。

基本的に仏頂面で言葉遣いもよくないけれど、いざとなると欲しい言葉をくれる人だった。


大変な時にたくさん彼の言葉に救われた。

こうして今のわたしがいるのも、すべて彼のおかげかもしれない。