君が助けてくれた夜

シェフはまるで子供を扱うかのように

私が泣き止むまで「大丈夫」と

頭をぽんぽんしてくれた。



お陰様で段々と心は平静を取り戻し始め

ぐちゃぐちゃだった顔も落ち着き出してきた。



優太から行けないとメッセージが来た後

別れようと送られてくるのではないかと

思ってしまい、怖くて見る事を避けていた

ケータイも見れるほどに回復した。









ケータイのロックを解除すると

メッセージは何も来ていなかった。


まだ終わりではないんだという安心と

本当に私に興味がないんだなという悲しみの

アンビバレントな思いを抱いた。






「え、もうこんな時間…」

メッセージの有無を確認した後

次に気になったのは時間。


もうレストランに入ってから2時間半が経っていた。


終電まではまだ余裕があるけれど

明日もお店があるだろうし

迷惑な客にこれ以上付き合わせてしまうのは

本当に申し訳ないから急いで帰る準備を始める。





「帰んの」

シェフはまた少し愛想の足りない顔に戻っていた。

「あ、はい。
もうこんな時間になっていたの知らなくて。すみません、明日もあるはずなのにこんなに長居してしまって。
お会計して頂いてもいいですか?」

私が財布をカバンから取り出そうとすると

シェフは目も合わせずに答えた

「お代いらないよ
コース料理食べてないじゃん」

「いや、でもその代わりのお料理頂きましたし…」



「…ポトフってイタリア料理じゃないんだよね」

急になんの話なんだろう…




「はあ、そうなんですか」



「だから、イタリアンレストランでイタリアンじゃないもの出してお金取るのまずくない?だからお代は受け取れない」

「え、でも…
あんなに美味しい料理を頂いたのにお金を払わないなんて…」



「あーーー、じゃあちょっとまってて」

そうシェフは言うと

キッチンの裏へ行った。







数分後彼は何やら小さい紙を持って出てきた。

「これ、持ってって」

シェフから渡されたのは

手書きで丸が3つ描かれており、

そのうちの一つの円の内側には

たぬきの顔のような絵が描かれていた。

「え、なんですかこれ」

「スタンプカード」

表情を変えずに話すもんだから

冗談なのか、本気なのか、わからなくて

思わず笑ってしまう。

「こんな高級なレストランでスタンプカードなんてあるんですか(笑)
しかも手書きですよね?これ(笑)」

「うん、今書いた」

「可愛いですね、このたぬき」

「は!?猫だし!」

「え!嘘!(笑)
めっちゃ絵下手!(笑)」

私にたぬきだと指摘されたシェフは

恥ずかしかったのか

男の人らしい大きい手で口元を隠した。

指の隙間から見えた顔は少し赤くなっていて

なんだかとても可愛かった。

「ん〜〜、まあ、!3つ溜まったら
プレゼントあげるから、また来なよ」

「ありがとうございます。また来ますね。
次はイタリアン、食べさせてください」

「おー、絶対うまいから、任せとけ」








店の外に出ると

真っ暗で、人通りも少なくなっていたから

シェフが送って行くと言ってくれたが

流石にこれ以上迷惑はかけたく無かったから

断った。










軽い足取りで駅のホームへ向かう。











あ、








シェフの言った通りだった。





















いま、幸せだ。