君が助けてくれた夜

「付き合い始めてから1年くらいはよくデートしてたんです。
なのに段々素っ気なくなってきて。
それでも記念日や誕生日は必ず会ってくれてたんです。
だけどもうそれすら無理な事を今日突きつけられました…」


つらつら話続ける私とは対照的に

シェフは相槌1つもせず黙々と食べ続けていた。



話を聞いてくれているのかいないのか

分からなかったけれど

私は気持ちの整理をする為に

話続けることを止めなかった。



「彼氏は同じ部署で、新卒で入った私の教育係だったんですけど、任期か終わった頃、すごく可愛い新入社員が新卒で来たんです。しかも仕事もできる子で…
社員は皆その子の方を向いていました。
彼氏も例外なく。
それから半年後くらいですかね、彼氏が私よりその子と話している時間の方が長くなったのは。
そして追い討ちをかけるように彼の部署が移動になって、唯一彼と顔を合わせることのできる場所もなくなってしまったんです。」

淡々と、愚痴のように話しているつもりだったが

思い返して話すと辛かった感情が蘇って

苦しくなる。

「私は顔だって可愛くないし、仕事もそこそこ。社交的でもないし飛び抜けた才能もない。
今まで気づかないふりをして頑張って生きてきましたけど、彼女のような人間として出来た人が周りにいると、どうしても現実を突きつけられますよね。
私は何もない、平均以下の人間だって現実が」



自分で話しておきながら涙目に滲んできた。

シェフは料理を食べ終えたようで

私は目が潤んであまりよく見えないけれど

私の方を見ているように見える。


私はもういい大人なのに

初対面の人に泣いているところを見せるのは

恥ずかしくて、情けなくて

俯きながら話しを続けた。



「なんの取り柄もないし、
なんの目標もない私は
なんのために生まれて生きているんでしょうか」

初対面の、何の関わりもない人に

そんな事を問い掛けたって

困らせるだけだという事はわかっているけど

今の私には相手を気遣う余裕なんて無かった。











ごめんなさいと思いながら俯いたままでいると

「大丈夫」という声と共に

私の頭をぽんぽんと撫でられた。



私の頭上にあるその手は同じ人の手なのに

先程の私が財布からお金を出す所を止めた

力強い手とは対照的に

優しさを帯びた温かい手だった。



「大丈夫。その新入社員がどれくらい可愛くて貴方がどれくらい仕事ができないかは知らないけど、貴方には魅力がある。
何もない訳じゃない。だから大丈夫」

シェフは優しい声ではっきりと大丈夫だと断言する。


初対面なのに私の魅力なんて知る訳無い

大丈夫だなんてただの気休めな事くらい

分かっていたけど

それでも

この情けない自分を受け入れてくれた

シェフの優しさに

涙が溢れて止まらなかった。