午後7時30分
約束の時間になったのに彼はまだ来ない。

仕事は几帳面で時間はきっちりと守る人だったのに。

“先にお店の中に入って待ってるね”

返事の来ない彼とのやりとりのメールに

また私から一方的にメッセージを送る。











重厚感のあるレストランのドアを開けると

中はいかにも高級ですという顔をした

家具やインテリアで揃えられていた。




「いらっしゃいませ」

私と同い年くらいの女性のウェイトレスが出迎えてくれた


「6時半で予約した西崎ですけど、1人まだきてなくて、すみません」

「かしこまりました。では先にお席ご案内致しますね」

女性のウェイトレスは遅れていることに対して嫌な顔一つせず

笑顔で案内をしてくれた。


「こちらの奥2つのお席をご利用ください
コートはお預かりいたします。」

ここのレストランはどうやら

カウンターの10席しかないようで

私は1番奥の2席に案内された。



横を見ると2組のカップルが綺麗な所作で

美味しそうなパスタを食べていた。






“ピロン”

席に着いた時

テーブルの上に置いたケータイの通知音が鳴る。

送り主は優太。

『ごめん、遅れる』





「もう既に10分以上遅れてるし…」

私は無意識に悲しみに似た言葉が口から溢れていた。

だけどここは落ち着いて

『大丈夫だよ、焦らずに気をつけて来てね』

彼には私の気持ちを悟られないよう

大人な対応で返す。







「彼氏さんの誕生日ですか?」

「え、」

正面からカウンター越しに声をかけてきたのは

ここのシェフだった。


「あ、男性物のショッピングバッグを持っていらっしゃったので。
彼氏さんのお祝いならコースのデザートにケーキでもお付けしようかと考えていたんですが、余計なお世話だったら申し訳ありません」

「あ、あぁこれ!そう、そうなんです。
でも遅れているみたいで、7時半で予約していたのにすみません、お気遣いありがとうございます」

「いえ、今日は西崎様とあちらの2組のお客様だけですので、お気になさらないでください」

シェフはそう言うと私のお礼の言葉も聞かずに

隣のお客さんのデザートを作り始めた



少し無愛想だけど気遣いができるし

年も私と大きくは変わらないはずなのに

自分のお店を持ってるってすごいなと

デザートの盛り付けをしているシェフを見ながら

ぼーっと考えていた




“ピロン”



また机の上のケータイが鳴る。



きっと優太だ。



もう入り口に着いたって連絡かな。




私はもうすぐ彼に会える実感が湧いて来て

少し緊張したまま

ケータイのロックを解除してメッセージを読む。

























絶望だった












午後8時






『やっぱ今日いけない』