君が助けてくれた夜

「ほい、親子丼」






「うわぁ〜!美味しそう!」

本当に親子丼の卵なの?って思うくらい

卵がとろっとろでキラキラして見えた。






1口すくって口に頬張ると




「んん〜!美味しい!」

ホクホクのご飯としっとり柔らかい鶏肉が

とてつもなく美味しかった。







食べる手が止まらない私を見て

シェフは優しく微笑んでいた。



















例のごとく、彼は自分用の親子丼を持って

私の横に座った。














すると

ぶっきらぼうでクールなシェフが

親子丼を食べながら

珍しく自分の話をぽつぽつとしだした。








「俺もさ、前はそこそこ有名なフレンチレストランで働いてたんだよね。」







目の前の料理を見ているように見えて

どこか焦点のあっていないような彼の視線



「へ〜!そうなんですね、だからこんなに素敵なお料理が作れるんですねぇ〜」



私はそんな彼の視線が気になりながらも

どこまで踏み込んで良いかわからず

当たり障りのない返事をしかできなかった。











「そう。俺もその店の料理の味が大好きで、めちゃくちゃ憧れ持って入ったのに、実際働いてみると一緒に作ってる人達には憧れを抱けなかった。
あそこにいる人達は全然料理のことみてなかったんだよね。」


少しだけ、ほんの少しだけ

怒りが混じったように見えたその表情を

私は見逃せなかった




「どういうことですか?」




初めて垣間見えたシェフの表情に



“踏み込み過ぎてはいけない”


その意識はいとも簡単に流されてた。











私が尋ねると

彼は

「あんまりいい話でもないからすぐ忘れて」

と苦笑いをしながら話し始めてくれた。






彼が言うにはこうだった




一緒に働いていた人たちは、ずっと他人の行動がどうのこうの、次に昇格するのは誰だとか、店の客の質がどうだとか、陰でコソコソ人の話ばっかりしていた。
そもそも他人に興味なかった彼は会話に入る気すらなかったけれど、自分がいないところでは自分も言われてるんだろうと容易に察せられた。
その環境が堪らなくストレスで、大好きだったはずの料理も次第に味がしなくなってった。
料理を学びたくて入ってきたのに料理が嫌になるなんて、何のためにきたのかわからなくなって、葛藤はすごくあったけど、結局やめることにした。









「だけど辞めたところでまだ経験が浅かったおれを雇ってくれるところもなかったし、あったところでどうせまた同じことの繰り返しなんじゃないかと思うと、次に身を置く場所を決めきれなかったんだよね。」


「そうなんですか…
でも今はこうして自分のお店を持ってまた大好きなお料理を作ってらっしゃいますよね。
どうやって立ち直ったんですか?」


「んー、そうだね。
しばらく職につかずふらふらしてたんだよね。ただぼーっとしてるだけの、生きてるのか死んでるのか分からないような日々…