「じゃあ、ありがとうございました。」


いつものように家の前に止まった西園寺の車から、紡木はお礼を言うと颯爽と降りていった。


「うん、また…。」


どこか寂しげな顔をしてそう返す西園寺に、紡木は胸が痛くなった。


なんか、私のせいでそんな顔をさせて申し訳ないな。


そう思いながらも、紡木が西園寺にかけてあげられる言葉など見つからず、ぺこりとお辞儀をしてアパートの中へと入っていった。



これで、多分先生とも暫く特別な関わりを持つことはないだろう。
またいつもの平凡な日々に戻れるだろう。


そう思うとなんとも言えない気持ちに襲われた。




そう思っていたのに──




「えーっと、1、2、3…うん、これで全員だね。」


本格的な夏の始まりを告げるかのように、微かに蝉の鳴き声が聞こえてくる化学室。


そこに紡木は真っ青な顔をして座っていた。



「じゃあ、始めよっか!」


西園寺は初夏の太陽に負けないほど眩しい笑顔を浮かべてそう言った。


なんで。



どうしてこうなったの…。



神様はどこまでも意地悪だ。