「紡木さん。」
カーテンの向こうへ、小さな声で名前を呼んだが、返事がなかった。本当に寝ているようだった。
「…開けるね。」
西園寺がそう言ってカーテンを開けると、そこには眉を寄せて眠る紡木がいた。
あまりの皺の深さに、西園寺は思わず吹き出して、それからゆっくり紡木の眉間へ触れると優しく撫でた。
その途端、表情が柔らかくなる紡木に、西園寺もふふ、と笑った。
好きだよ。
9つも下の男の子たちにやきもち焼くくらい。
やきもちやいて紡木さんにあんな態度とっちゃうくらい。
馬鹿みたいでしょ。
紡木さんから見たら26歳はすごく大人に見えるだろうけど、本当は君が思ってるより幼稚なんだ。
本当に初恋なんだ。
だから、あんまり意地悪しないでよ。
西園寺は紡木の頬を優しく撫でてから立ち上がった。
時計を確認すると14時30分。あと一時間ほどで文化祭が終わろうとしていた。
結構寝てたんだな。
まだ疲れが取れてない気もするけど、そろそろ戻らないと他の先生方に怒られそうだ。
西園寺はふう、とため息をつくと保健室を後にした。

