「なんかしょっぱいの食べたい!」
少し離れて
ウサギの声が聞こえる
「あ、またハズレ…」
「あー…甘すぎる!」
「ハズレ…」
だから
甘すぎるのは
ウサギだよ
そんな簡単に当たらないんだよ
わかったか?
私の夢をバカにしたこと
撤回してほしい
謝れ!
「今度ママが作った梅干し持ってこようか?
すっっっごい酸っぱいよ」
「梅干し?いらない
そーゆーのじゃない
…
あ、そ~言えばオマエの家族
心配してなかった?」
「ん?なにが?」
「今日も言ってこなかったのか?
オレのアパートに行くって…」
「うん、別に言ってないよ
GPS付いてるから言わなくても…」
「そこまで過保護なの?」
「過保護っていうか、心配してくれてる」
「ふーん…」
ブー…ブー…ブー…
噂をすれば…
《ママ》
「もしもし、ママ…
…
うん、大丈夫だよ
友達のアパートにいる
…
うん、うん、うん…
わかった
…
じゃーねー!」
「ママ?」
「うん、ママ
GPSがしばらく同じ場所で動かなかったから
倒れてないかって電話くれたの」
「はー…すげー過保護
それとも極度の心配性?」
「親ならみんな
子供が心配なの当たり前じゃないの?」
「んー…どーかな…
そーなのかね
…
オレにはそんな人いないから、わかんね」
ん?
ウサギの言い方に
なんか引っかかって
お菓子を開ける手を止めた
「ウサギの実家ってここから近いの?
大学に中学一緒だった人いるってことは
ここが地元だよね?」
「うん、地元
実家は…
実家は、ここになるのかな?」
「ん?お父さんとお母さんは?
あと兄弟とかは?
私はふたり弟がいるの」
「へー…弟ね
オレは兄ちゃん
結婚して家建てて住んでる
…
親は…
親はいない
…
父親も母親もどっちもいない
だから、誰も心配なんかしてくれない
…
…って…暗くなるじゃん
オマエが聞いたんだろ!」
親はいない
ホントに?
私が聞いたけど
そんなの知らなかったんだもん
「ふーん…そーなんだ…」
聞いて悪かったな…って思ったから
なるべく普通に応えた
「興味なさそうに言うね」
「そぉかな?」
ウサギもサラッと言ったじゃん
ここで同情するのも…って
思ったし
死ぬ死ぬ詐欺と一緒で
ホントはいるんじゃない?って思っちゃう
「オマエ、また冷めた目でオレを見てる
オレはオマエんちと違うんだよ
誰もオレのことなんか心配してない」
そぉかな?
私はどんな表情したらいいか
わからなかったから
誰もウサギを心配してないっていうのも
違う気がする
最後に開けたお菓子は
ハズレだった
今日も夢は
叶わなかった



