あの春を、もう一度。

私は先輩の瞳を覗き込む。やっぱり今日も、この人の瞳は綺麗だ。

こうしていると、5年前にタイムスリップしたような不思議な気分になる。

やっと、言える。隠さず、誤魔化さず、ちゃんと。

「私、昔も今もずっと、先輩のことが好きです。毎日…先輩に会いたいと思ってました」

やっと、届いた。

余韻に浸る、少しの間をおいて先輩は立ち上がる。

それから私の前に屈む。

流れるように素早く、ぶら下げていたカメラを構えて、パシャリ、とシャッターを切る。

不意をつかれて私はポカンとする。

小さい画面をしばらく眺めて満足そうに頷いてから、私を手招きする。

「良いのが撮れた!」

私と先輩は画面を半分こして、一緒に画面を覗き込む。

そこに映っているのは他でもない私なんだけれど、見入ってしまった。

澄み渡る青い空の下で、桜の花びらの絨毯に腰を下ろしている光景が、おとぎ話のワンシーンの様だった。

自分だけど、自分じゃないように美しい。

先輩から見る私は、こんなに綺麗なんだ…。

感動する私の頭に、先輩が手を置く。それからそっと撫でて、微笑む。

「俺はもう、春野から離れない。これから見る景色全部を、春野の隣で見たい」

私の手が掬い上げられ、優しい温かさが染み渡る。

私もぎゅっと先輩の手を握り返す。

「先輩の綺麗な世界、私もずっと一緒に見たいです」

改めて見つめ合うと、なんだか照れてきた。

私は、少し視線を逸らす。

「そういえば、先輩、背伸びました?」
「マジで⁉︎俺、身長高くなってる⁉︎」
「嘘ですけど」
「おいっ!」

2人してニシシ、と声を揃えて笑う。




一度は止んだ、桜の雨。

それが今また、こうして私と先輩に降り注いでいる。

桜は何度でも咲く。

だから、また、紡ぐことができる。

中途半端に途絶えてしまった、私と先輩の物語の続きを。

ただひたすらに青くて眩しい、



あの春を、もう一度。