あの春を、もう一度。

それからまた季節は巡り。

私は無事、地元の有名私大に進学。アルバイトと学業の両立に奮闘してきた。

さらり、と高校時代より伸びた髪を温かい風が撫でていく。毛先に、ピンクの花びらが絡みつく。

あの春から数えて、5度目の桜。

今の私は人並みに楽しくて大変な生活を送る、大学4年間を終えて、新たな一歩を踏み出そうとしている。

社会人になるまでの束の間の休息を満喫中…と言っても、していることは例年となんら変わらない。

かつて通っていた高校から程近い、桜の並木道をゆっくり、のんびり歩く。

あの春から、桜が咲き、散り終わるまで毎日、私はこの道を辿ることにしている。

理由はただ1つ。

先輩と再会するならここだと、確信しているから。

別に、何か根拠がある訳ではない。なんせ、私達はあれ以来言葉を交わしていない。

学校で会えるからと言って、互いに連絡先を交換しようともしなかったことをこの5年間、どれほど恨んだか。

それでも、先輩がもしこの街に帰ってきて、1番にすることはこの並木道を歩くことだと思う。

それも、先輩が心変わりしていなければの話なんだけど…。

高校時代にどこかの誰かさんの遅刻癖に振り回されていた私でも、さすがにこれだけの長い間人を待つなんて経験したことがない。だから正直、不安に思うことは多々あった。

だって、先輩は私よりもよっぽど人との交流が盛んな立場にある上に、私よりも素敵な人なんて、星の数ほどいるのだから。

そもそも私が勝手に1人で、約束したことだし、5年も顔を見ていない後輩なんて最早出る幕すらないんじゃないかと考えるのも無理はない。

でも、先輩のことを信じて待ち続けているのは、言わなかったから。

“さよなら”って。

先輩が口にしなかったから私も“さよなら”、なんて言わなかった訳だし。

先輩は元々、あの別れを私達の最後にするつもりはなかったんじゃないのかな。

だったら、約束が叶えられる日まで待つという選択肢しかなかったんだよね。

我ながら、根気強いとは思うけど。

穏やかな白い雲がぷっかり浮かぶ、青空を見上げる。青い空が、春の代名詞である桜のピンク色を引き立てている。

先輩、今頃どんな写真を撮っているのかな。いつか見せてもらいたいなあ。

私は歩みを止め、桜の木と向かい合う。

そして、あの頃の先輩がしていた様に、降り注ぐ桜の雨のうちの一片を掴もうと、手を伸ばす。

その時だった。

「……の」