あの春を、もう一度。

便箋の角に、ぽたりと落ちた丸い染みが広がっていく。

私は手紙を胸に抱く。

「せんぱ、い………」

嗚咽の混じった、声にならない声で先輩を呼ぶ。当然、返事はない。

先輩のことなら、何でも知っているつもりだった。

食べ物の好き嫌いも、実は背があんまり高くないのを気にしていることも、登校時間に遅刻しがちなのは、毎朝欠かさずに朝ドラを観ているからということも。

でも…私が、悩んでいた先輩を救った?

そんなの、知らなかった。

私は、先輩からたくさんのものを貰ったと思っていたし、今もそう思っている。

けれど、私も先輩にとって特別なものをあげられていたの…?

その時、封筒から見慣れたサイズ感の長方形が飛び出していることに気づいた。

熱い目元を擦り、私は封筒を手にする。

出てきたのは、2枚の写真。

1枚は忘れもしない、私と先輩が繋がるきっかけとなった、輝く雨上がりの空の写真。

2枚目を見た瞬間、私は目を見開く。

映っているのは満開の桜をバックに弾けるような満面の笑みでピースをしている、私。

これは…、思い出した。

先輩の先輩、つまり私の2つ年上の先輩達が卒業する前にしたお花見の時の写真だ。

じゃんけんに負けた私と先輩で場所取り中に先輩がカメラを向けてきたんだった。

でも、なんでこの写真を同封したんだろう。
1枚目は、自分達の最初の思い出だからとかだと思う。けど、2枚目は…?

疑問を持ちつつ何気なく写真を裏返すと、右下の方に黒いマジックペンで文字が記されていた。

その5文字を見つけて、しばらく静止する。

それから何度も何度も何度も繰り返し目を走らせる。けれど、その文字は手紙のと全く同じ筆跡で、書いていることも私の読み違いじゃない。

先輩、本当に………?私が、先輩の?




「“大好きな人”…」




もう、限界だった。堪えていた涙が涙腺の決壊によって、制御不可能な勢いであふれる。

「お、遅すぎ、ますよぉ」

先輩、普段は単純なのに、肝心なところは分かりにくいんですよ!逆にしてください!!

そんな憎まれ口を叩いてみても、感極まった嬉しい感情には勝てないらしく。

始めはただの泣き声だったのが、段々嬉し涙に変わり、終いには笑い声となっていた。

「…先輩には敵わないなぁ」

ねぇ、先輩。