「先輩…」
このことは、初めて知った。
あんなに写真が大好きで、誰よりも写真部を大切にしていた先輩が、そんな風に苦しんだことがあるだなんて。
少なくとも、私の前ではそんな素振り一度も見せなかった。
『そんなつらい時、何気なく見上げた空をカメラに収めたんだ。本当に何気なく、ほぼ癖で。そしたら、その写真を見てある人が呟いたんだ。どこまでも真っ直ぐな瞳をしている女の子が、「綺麗…」って』
私は密かに息を呑む。
その人って………。
『びっくりしたよ。テーマもメッセージ性もない、ただの風景写真にあんまりにも見惚れているからさ。それで、どこが気に入ったのか聞いてみたんだよ。そしたら俺以上に驚いた顔してさ、「逆に不評するポイントがありますか?」なんて言うんだよ。しかも、その子は嘘もお世辞も籠っていない、素直な声色で言い切ったんだ。
「こんなにも透き通っていて、ありのままの世界が美しいと教えてくれるもの、他にはないですよ。こんなに綺麗な眺めを捉えられる瞳、私も欲しいです」って』
私だ。
私と先輩が、初めて出会った時のこと。
先輩、あの時のこと覚えてくれてたんだ…。
身体の内側から、嬉しさや感動、懐かしさがない混ぜになった熱が込み上げてくる。
『それを聞いて、なんか、今まで自分を縛っていた何かが吹っ切れた感覚がしたんだよ。気負わずに、なんのプライドも見栄も張らずにいる、ありのままの俺を肯定してもらえたような気がしてさ。今の俺しか知らない春野からしたら信じられないだろうけど、それまでの俺って、他人の評価とかめっちゃ気にするタイプだったんだよ。俺にはカメラしかないからさ、写真のこととなると余計に。
でも、春野の真っ直ぐな言葉と優しさが、俺の凝り固まっていた心をほぐしてくれた。その恩人が、まさか自分の後輩になるとは夢にも思わなかったけどなぁ』
私も、まさか撮影した本人に感想を熱弁していただなんて夢にも思わなくて、部室で再会した時、恥ずかしくって堪りませんでした。
『それからはもう、お説教なんて日常茶飯。俺が遅刻したり授業サボったりすると、眉吊り上げて怒ってさ。かと思えば、俺のこと見てコロコロ楽しそうに笑ってる。初めて会った時の印象のまんま、真っ直ぐに嘘偽りなんてなく。作り物じゃないけれど、喜怒哀楽の4文字には収まりきらない豊かな表情に、思ったんだ。
俺が見てきた、それこそ春野が褒めてくれた景色以上に美しい、世界で1番、輝いているって。この健気で綺麗な人を撮りたい、1分1秒ごとに変化していく美しさを、撮り逃したくないと感じた。カメラを持つのがひたすらに楽しくなった。
春野はよく、「先輩と出会って、世界の美しさを知りました」って言ってくれてたけど、逆だよ。俺が春野と出会って、初めて、本当の世界の美しさを知ったんだ。この綺麗な世界を自分の手で撮って、世界中の人に見てもらいたいって、心の底から思った。
春野は夢半ばで彷徨っていた中途半端な俺に、写真を撮る意味をもう一度くれた。だから、ありがとう。
もう迷わない。俺は、春野が示してくれた道を進んでいくよ。 青井 』
このことは、初めて知った。
あんなに写真が大好きで、誰よりも写真部を大切にしていた先輩が、そんな風に苦しんだことがあるだなんて。
少なくとも、私の前ではそんな素振り一度も見せなかった。
『そんなつらい時、何気なく見上げた空をカメラに収めたんだ。本当に何気なく、ほぼ癖で。そしたら、その写真を見てある人が呟いたんだ。どこまでも真っ直ぐな瞳をしている女の子が、「綺麗…」って』
私は密かに息を呑む。
その人って………。
『びっくりしたよ。テーマもメッセージ性もない、ただの風景写真にあんまりにも見惚れているからさ。それで、どこが気に入ったのか聞いてみたんだよ。そしたら俺以上に驚いた顔してさ、「逆に不評するポイントがありますか?」なんて言うんだよ。しかも、その子は嘘もお世辞も籠っていない、素直な声色で言い切ったんだ。
「こんなにも透き通っていて、ありのままの世界が美しいと教えてくれるもの、他にはないですよ。こんなに綺麗な眺めを捉えられる瞳、私も欲しいです」って』
私だ。
私と先輩が、初めて出会った時のこと。
先輩、あの時のこと覚えてくれてたんだ…。
身体の内側から、嬉しさや感動、懐かしさがない混ぜになった熱が込み上げてくる。
『それを聞いて、なんか、今まで自分を縛っていた何かが吹っ切れた感覚がしたんだよ。気負わずに、なんのプライドも見栄も張らずにいる、ありのままの俺を肯定してもらえたような気がしてさ。今の俺しか知らない春野からしたら信じられないだろうけど、それまでの俺って、他人の評価とかめっちゃ気にするタイプだったんだよ。俺にはカメラしかないからさ、写真のこととなると余計に。
でも、春野の真っ直ぐな言葉と優しさが、俺の凝り固まっていた心をほぐしてくれた。その恩人が、まさか自分の後輩になるとは夢にも思わなかったけどなぁ』
私も、まさか撮影した本人に感想を熱弁していただなんて夢にも思わなくて、部室で再会した時、恥ずかしくって堪りませんでした。
『それからはもう、お説教なんて日常茶飯。俺が遅刻したり授業サボったりすると、眉吊り上げて怒ってさ。かと思えば、俺のこと見てコロコロ楽しそうに笑ってる。初めて会った時の印象のまんま、真っ直ぐに嘘偽りなんてなく。作り物じゃないけれど、喜怒哀楽の4文字には収まりきらない豊かな表情に、思ったんだ。
俺が見てきた、それこそ春野が褒めてくれた景色以上に美しい、世界で1番、輝いているって。この健気で綺麗な人を撮りたい、1分1秒ごとに変化していく美しさを、撮り逃したくないと感じた。カメラを持つのがひたすらに楽しくなった。
春野はよく、「先輩と出会って、世界の美しさを知りました」って言ってくれてたけど、逆だよ。俺が春野と出会って、初めて、本当の世界の美しさを知ったんだ。この綺麗な世界を自分の手で撮って、世界中の人に見てもらいたいって、心の底から思った。
春野は夢半ばで彷徨っていた中途半端な俺に、写真を撮る意味をもう一度くれた。だから、ありがとう。
もう迷わない。俺は、春野が示してくれた道を進んでいくよ。 青井 』



