あの春を、もう一度。

先輩。私、冗談抜きで先輩には困らせられてばっかりでしたけど。その分、ううん、その分以上にたくさんのものを貰いました。

「青井先輩の後輩で、幸せでしたー!!!」

あまのじゃくな私だけど、これは嘘のない本音です。

きっと、先輩にも届いたんだろう。

先輩は遠目でも分かる、勢いのいいピースサインを天に掲げて颯爽と駆け出して行った。

私はそれが豆粒ほどの大きさになって、やがて完全に見えなくなっても、しばらく動かないでいた。

さっきまで先輩が居た空間に目をやる。

もう会えないかもしれない。

カウントダウンはゼロを刻んだ。

それでも、先輩が次を語るのなら、私はさよならなんて言いませんよ。

見上げた空には、一番星が遠慮がちに瞬いていた。