あの春を、もう一度。





「降り注ぐ桜の雨は、まだ、止まないで」




止んだら、もう会えなくなっちゃう。

カウントダウンが0になったら、もう手が届かない。

目の前の桜の木の奥で待ち構えているのは、左右に手を広げるY字路。

ほんの数歩踏み出せば、2年間重なっていた私と先輩の道は枝分かれる。

………嫌だな。

まだ一緒に居たいんです。隣で馬鹿騒ぎしていて欲しいんです。そうじゃなきゃ、右隣が空っぽで寂しいんですよ。

カウントダウンはもうすぐ0を告げようとしている。

それなのに、まだ何も伝えられていない。

『好きです』も『ありがとうございました』も、言いたいこと全部、全部。

鼻の奥がツンとして、心なしか薄っすら視界が揺らぐ。

そんな様子を知ってか知らずしてか、先輩は私とは反対の方向に目をやる。

それからいつもの、のんきな声色でふとこんなことを言う。

「桜の良いところはさ、また何度でも咲くところだよな」

え………?

私は目を擦って、俯けていた顔を上げる。

先輩は掌に乗せた1枚の花びらを、じっと見つめている。

「全く一緒のはもう見れなくても、同じ桜の木の花として次の春も開くだろ」

ふわっと吹いた風が花びらを攫っていく。

先輩はそれを見届けて、ゆっくりと言葉を紡ぐ。