あの春を、もう一度。

「同時に後悔するんです。どうしてあの美しい光景を、目に焼き付けておかなかったんだろうって」

どうして、あの楽しくて愛おしい日々をもっと大事にしなかったんだろう。

ちゃんと勇気を出していたら、こんなに未練がましい気持ちで先輩と別れるなんてことにはならなかったかもしれないのに。

「その頃には、いつの間にか木が寂しい姿になってしまっていて、いくら後悔しても、いくら願っても、1番綺麗だと気づけなかった風景はもう見れない」

あの何気ない日常は、これからは過去のことになってしまう。

いくら願っても、この先、オンボロ部室で先輩の顔を見ることはできない。校舎でバッタリ出会って挨拶を交わすこともない。

「あとは儚く散りゆく花びらを、ただただ見つめることしかできない」

迫り来る卒業の日までをカウントダウンするしか、無力な私にはすることがなかった。

だって、変えられない運命には抗いようがない。

それは分かっているつもりだった。

それでも、日々、別れの日が迫る度に想いは膨らむばかりで。

残り時間に反比例して恋心が大きくなるほどに、奇跡を信じたかった。

願ったの。

あと少し。

あと少しだけでいいから。