私は桜の花を見つめる。満開の時期をやや過ぎた木から、絶え間なく淡いピンクの涙が落ちていく。

「咲きたての頃は、ワクワクするんです。『もっといっぱい花が咲く、そしたらもっと綺麗な景色が見られる』って。期待と希望に満ち溢れているんです」

先輩に惹かれていることを自覚した時、心に明るい光が差し込んだ気がした。

きっと素敵な時間が訪れるんだ、と想像して心の底からワクワクした。

気づいたら芽生えていた恋心は、少しの不安と、それを遥かに上回る期待と希望でいっぱいだった。

「時間が経って、満開の時期が来ても、それに気づかない。夢の中にいる心地で、まだまだ咲くはず、これが満開な訳がないって思ってしまうんですよ」

先輩と過ごす時間が積み重なるほどに、想いは大きくなって。この幸せが永遠に続くものだと信じて疑わなかった。

「実際には、後は終わりが近づくばかりで、その時やっと分かるんです」

先輩との2回目の春が終わり、夏、秋へと季節が移ろいで行く度に実感せざるを得なかった。

「…あぁ、もう満開は過ぎたんだな。もうあの日々は戻ってこないんだな」

時間は有限で、もうすぐ会えなくなると。