元カレは、最後に最悪の捨て台詞を吐いて早足でどこかへ行ってしまった。


……きっと、私の気のせいだろう。


私の音だろう。


……カヤの心臓が、少し大きくて速いのは。


「大丈夫か?」


カヤが、マスクを戻して私の顔を覗き込む。


抱きしめられるまま顔を近づけるものだから、その距離は、キッ……き、キスができそうなくらいで。


「う……うん」


こくこくと高速でうなずいて、顔をそらす。


「それにしてもあれはやべーな。きっしょはねーわ」


あの元カレの言葉、結構グサッときたんだよね。


あはは……と力なく笑う。


たとえ知らない人でも「きっしょ」なんて言われたら傷ついちゃうなぁ……。


今は、涙がこぼれないようにするのが精一杯だった。