由榴さんが……カヤを変えた。



私じゃない、そんなどうしよもない感情が生まれてくる自分が嫌になる。



「今じゃ椿にとってあの時代は黒歴史ってわけ。……思い出したくなかったはずなのにな。……由榴が芸能界に入ったんだ」



「え?なんて言いましたか?」



最後の方は聞き取れなくて問い返すけど、仙道さんはニコッと笑った。



「んーん、なんにもないよ。さ、そろそろ帰ったらどうかな?」



仙道さんはウインクをして私を急かした。



「そうですね、すみませんわざわざ。……仙道さんがいてくれて私、すっごく冷静になれたんです」



だからありがとう、そう笑って言えば仙道さんは私からふいっと顔をそらした。



「っ、気にしないでよ。じゃ、僕は打ち合わせあるから」



踵を返して背を向けた仙道さんの耳は気のせいか赤く見える。



「はぁ……いい加減僕の気持ちと向き合わないとな……」



どうしたんだろう……。



「……まあいっか」



そう思って帰ろうとした時だった。



ーー迷子だと気づいたのは。



あの時はきっとまわりのことなんか見えてなくて知らないところに来ちゃったんだ。



どうしよう。



仙道さんは急いだ様子でどこかに行ってしまったし。