セドニーが最終試験を受けている間、アズロは黒猫の姿のまま屋根の上で待ち続けた。今日ばかりはタイガの手伝いをするつもりはない。
昨日は遠出をさせられたおかげで危うくセドニーの危機に間に合わなくなるところだったのだ。だがそれも言い訳だった。すぐにでも駆け付けられるだけの方法をアズロは持っていなければいけなかったのだから。タイガを責めるには自分の力不足と油断が躊躇させた。
でもアズロはもういつでもセドニーの元に行ける方法を身に着けている。お互いの耳に光る揃いの飾りが二人を繋ぐ媒体となってくれるからだ。これがセドニーの目印になる。だからもう二度と同じ過ちは犯さないと強い気持ちでアズロはセドニーの動きを待った。
屋根の上からセドニーが籠ったままの部屋を見つめる。いつでも動けるように、変化に気付けるようにアズロはその時をただ静かに待ち続けた。
しばらくして慌てた様子でセドニーが部屋から出てきた。アズロはすぐに駆け下りて声をかける。
「セドニー!」
「アズロ!大体の場所が絞れたの、私すぐに行ってくる!」
「行くってどこにだ?」
「ここからずっと東の方、今から馬車に乗れば明日の昼までには帰ってこれそうなの!だから…。」
「なら俺が連れて行ってやる。」
頭の中はすでに自分が進むべき場所の事でいっぱいだった。セドニーは上着に袖を通しながら懸命に説明をする。時間が限られているため、焦りを隠せないセドニーがアズロにここで待つよう伝えようとしたときだった。
「え、連れていくってダメだよ。だって師匠からは自分の力でって…。」
そう口にした瞬間、胸の内で否定した。
「自分の持つ力全てを使って…。」
「セドニーの持つ力の内に俺は入るんじゃないか?」
金色の黒猫が首を伸ばして見上げてくる。その姿を見つめながら、確かに魔獣の力を借りてはいけないとは言われなかったことを思い出した。
頼ってもいいんだろうか。そんな思いでアズロの目を見れば、真っすぐな目で返してくれる。
「アズロ協力してくれる?」
「ああ。任せろ。」
アズロが自信満々に笑う、その表情にセドニーは勇気を貰い胸が熱くなった。任せろと言ってくれた事が素直に嬉しい。
「ここは狭い。付いてきてくれ。」
アズロに導かれるまま二人は裏庭の薬草園近くまで移動するとアズロが先に足を止めて振り返った。
周りに人の気配がないか確かめているのだろう、セドニーと目を合わせると自身を光が包み猫はヒョウの姿へと変わっていった。
「わ…。」
こうやって明るい太陽の光の中でアズロの本当の姿を見るのは初めてだ。うっすらとした朝の光でもそう思ったが、今はもっと強くアズロの姿を綺麗だと思う。
「…きれい…。」
「当然だ。さあ、背中に乗れ。」
「え、この姿で街中を駆けるの!?」
「まさか。もっと上だ。」
顎を上げてみせる仕草に屋根の上をかけるのかとセドニーは理解した。屋根の上でも十分に目立つのではと眉を寄せて思案したが、早く乗れと急かすアズロにとりあえず従うことにする。
二人の重みで屋根に穴が空いたりしないだろうか、そんな不安をセドニーが抱いているとは知らないアズロが飛び立つために身を屈める。
「しっかり掴まってろ。行くぞ。」
「うん。うわっ!」
言われるまでもなくアズロの首周りにしっかり掴まったセドニーは急に襲ってきた浮遊感に思わず目を閉じた。身体のどこに力を入れて踏ん張っていいかが分からなくなる。
上から来る風の勢いでアズロの出す速度を怖いほど感じた。風圧を感じるだけで身体に来る振動がない事から、これはまだアズロのほんの一歩に過ぎないと分かっていた。
これが一歩目、その事実がセドニーの絶望をこっそりと呼んだ。
「うーーーっ!」
衝撃的な跳躍力に悲鳴以外の言葉もでない。控えめに言って想像以上に怖かった。やがて止んだ風圧に息を吐くが、まだ屋根に足を下ろしたような衝撃が伝わってこない。
どうなっているのだろう、そんな気持ちで薄目を開いた時だった。
昨日は遠出をさせられたおかげで危うくセドニーの危機に間に合わなくなるところだったのだ。だがそれも言い訳だった。すぐにでも駆け付けられるだけの方法をアズロは持っていなければいけなかったのだから。タイガを責めるには自分の力不足と油断が躊躇させた。
でもアズロはもういつでもセドニーの元に行ける方法を身に着けている。お互いの耳に光る揃いの飾りが二人を繋ぐ媒体となってくれるからだ。これがセドニーの目印になる。だからもう二度と同じ過ちは犯さないと強い気持ちでアズロはセドニーの動きを待った。
屋根の上からセドニーが籠ったままの部屋を見つめる。いつでも動けるように、変化に気付けるようにアズロはその時をただ静かに待ち続けた。
しばらくして慌てた様子でセドニーが部屋から出てきた。アズロはすぐに駆け下りて声をかける。
「セドニー!」
「アズロ!大体の場所が絞れたの、私すぐに行ってくる!」
「行くってどこにだ?」
「ここからずっと東の方、今から馬車に乗れば明日の昼までには帰ってこれそうなの!だから…。」
「なら俺が連れて行ってやる。」
頭の中はすでに自分が進むべき場所の事でいっぱいだった。セドニーは上着に袖を通しながら懸命に説明をする。時間が限られているため、焦りを隠せないセドニーがアズロにここで待つよう伝えようとしたときだった。
「え、連れていくってダメだよ。だって師匠からは自分の力でって…。」
そう口にした瞬間、胸の内で否定した。
「自分の持つ力全てを使って…。」
「セドニーの持つ力の内に俺は入るんじゃないか?」
金色の黒猫が首を伸ばして見上げてくる。その姿を見つめながら、確かに魔獣の力を借りてはいけないとは言われなかったことを思い出した。
頼ってもいいんだろうか。そんな思いでアズロの目を見れば、真っすぐな目で返してくれる。
「アズロ協力してくれる?」
「ああ。任せろ。」
アズロが自信満々に笑う、その表情にセドニーは勇気を貰い胸が熱くなった。任せろと言ってくれた事が素直に嬉しい。
「ここは狭い。付いてきてくれ。」
アズロに導かれるまま二人は裏庭の薬草園近くまで移動するとアズロが先に足を止めて振り返った。
周りに人の気配がないか確かめているのだろう、セドニーと目を合わせると自身を光が包み猫はヒョウの姿へと変わっていった。
「わ…。」
こうやって明るい太陽の光の中でアズロの本当の姿を見るのは初めてだ。うっすらとした朝の光でもそう思ったが、今はもっと強くアズロの姿を綺麗だと思う。
「…きれい…。」
「当然だ。さあ、背中に乗れ。」
「え、この姿で街中を駆けるの!?」
「まさか。もっと上だ。」
顎を上げてみせる仕草に屋根の上をかけるのかとセドニーは理解した。屋根の上でも十分に目立つのではと眉を寄せて思案したが、早く乗れと急かすアズロにとりあえず従うことにする。
二人の重みで屋根に穴が空いたりしないだろうか、そんな不安をセドニーが抱いているとは知らないアズロが飛び立つために身を屈める。
「しっかり掴まってろ。行くぞ。」
「うん。うわっ!」
言われるまでもなくアズロの首周りにしっかり掴まったセドニーは急に襲ってきた浮遊感に思わず目を閉じた。身体のどこに力を入れて踏ん張っていいかが分からなくなる。
上から来る風の勢いでアズロの出す速度を怖いほど感じた。風圧を感じるだけで身体に来る振動がない事から、これはまだアズロのほんの一歩に過ぎないと分かっていた。
これが一歩目、その事実がセドニーの絶望をこっそりと呼んだ。
「うーーーっ!」
衝撃的な跳躍力に悲鳴以外の言葉もでない。控えめに言って想像以上に怖かった。やがて止んだ風圧に息を吐くが、まだ屋根に足を下ろしたような衝撃が伝わってこない。
どうなっているのだろう、そんな気持ちで薄目を開いた時だった。


