魔女のはつこい

「さて、最終試験といきましょう。」

気を取り直し告げられた言葉にセドニーは強く頷いた。

昨日の事件があった事もあってラリマから再度意思確認をされたがセドニーの気持ちは変わらない。何よりここで予定を伸ばせば尚の事悪化するという予感もあったのだ。セドニーは自分の為にも早く自分を確立させたかった、その意思を確認したラリマは予告通りの試験を受けさせることにしたのだ。

とはいえ一体どんな試験が来るのか全く想像ができないので緊張と不安が一気に押し寄せてくる。これまで先輩魔女からの聞いた話だと、師から与えられる最終試験は多種多様で定められたものがなかった。

この国の全ての町の特産品を集めてこいと言われた人もいれば、食べ物で虹を掛けろと言われた人もいる。幻の薬草を探せと言われた人もいたが、師弟一騎打ちをした人もいるというから予想が出来なかった。

ラリマの事だから一騎打ちは無いだろうと、そこだけは予想するがそれすらも裏切られそうで怖い。ガチガチの状態でラリマの言葉を待っているといつもの様に柔らかい笑みを浮かべたラリマが掌サイズのウサギのぬいぐるみを差し出した。

いや、それは具象気体だ。本物ではないとセドニーは瞬時に見抜いた。

「これと全く同じぬいぐるみをある場所に隠しています。それを見つけられたら合格よ。」
「え?」

戸惑いからぬいぐるみとラリマの間をセドニーの視線が行き来する。ラリマは微笑みながら頭の端をつまむと全角度から確認できるように軽く回した。

「十秒あげるわ。よーく見て覚えてね?一つ…二つ…。」
「えっ?」

カウントが始まるとセドニーは慌ててぬいぐるみに集中し特徴を覚えることにした。淡い茶色の身体、緑の目、口元は白く可愛らしい薄ピンクのドレスが着せられている。ドレスの裾は星の形の刺繍で彩られていた。それはまるで今日のセドニーを模った様に似ていた。このウサギはセドニーだ。

「九つ、十。いってらっしゃい。」

ラリマの声を機にぬいぐるみは光に包まれて消えてしまう。あ、と声を漏らしてももう遅い。消えたぬいぐるみの向こうにあったラリマと目が合ってセドニーは思わず息を飲んだ。

「期限は明日のお昼まで。セドニー、貴女の持つ力全てを使って挑みなさい。」

急激に緊張が遅いセドニーの身体が震えた。口から洩れる呼吸が震えているのが分かる。

「幸運を祈るわ。」
「は、はい!」

セドニーは大きな声で返事をするとすぐに空部屋へと向かった。ここは見習い魔女たちが自主的に修行したりする時に使える場所だ。

「まずは占おう。」

今まで何度も使ってきた練習用の水晶玉をバッグの中から取り出した。最近ではずっと持ち歩いているのですっかり生活の一部になっている。手の震えが止まらず思わず水晶玉を落としそうになったが、無事に事なきを得た。

深呼吸して改めて水晶玉と向き合う。

「今日もお願いね。」

そう声をかけるとほのかに水晶が光を帯びた。これは水晶なりの挨拶だ。両手をかざすと記憶したばかりのウサギのぬいぐるみを鮮明に思い浮かべた。

探しているのはこのウサギのぬいぐるみ。自分とおそろいの服、セドニーの髪色と同じ毛色、同じ色の瞳。

手元に実物がないし、情報は自分の記憶の中にしかない分難しくなることは承知していた。思い出して、掌に乗るくらいの大きさ、色合い、特徴、雰囲気、どことなく感じた波長、鮮明に記憶の中から手繰り寄せる。

「分かる…?私が感じたこと…。」

水晶に語り掛けながら自分の中のイメージをひたすらに与え続けた。丁寧に、丁寧に。この初動が一番重要なのは分かっていた。セドニーは慎重に記憶を頼りにぬいぐるみを模っていく。

「掴んだ。」

大方の模りは出来た、ここからはどこにあるのかを探っていく必要がある。気配を探し、数えきれない情報の中からふるいにかけて居場所を絞っていくのだ。

まずは方向、大まかなものは分かった。次は距離だ。自分の意識を前へ前へと進めていくと強く惹かれる方向を見つけたのでそのまま進めていった。

でもまだ遠い。もっとより鮮明になるまでセドニーは意識を水晶の中へ飛ばし続ける。