椎野麻衣様

突然、こんな手紙を書いてゴメン。
これを椎野が読むのは、卒業する時だろうか?それとも、それよりも遥か後だろうか。
今日、俺は教師を辞めます。
こんな中途半端な時期に辞めるのは自分でも許せないけど、こればっかりは仕方が無い。
椎野と出会ったのは1年前だったな。
まだ、中学生の面影を残した椎野を見て、俺は不覚にも一目惚れをした。
椎野には迷惑な話だと思う。
こんな年上のオヤジを相手になんて出来ないだろうし、オヤジの戯言だと思ってもらっても構わない。
どうせ、この想いを伝えることが出来ないなら、いつ読んでもらえるか分からない手紙にしようを思った。
椎野は覚えているだろうか?
俺が、職員室で君に問いかけたことを。
『椎野は俺のこと嫌いか?』
あの頃の君は俺を避けてるように思えたんだ。
手を伸ばせば届く距離なのに、伸ばせられないもどかしさ。
だから、つい、聞いてはいけないことを聞いてしまった。ごめん。
いつの日か、大人になった椎野に会えればと思う。
それでは、お元気で。

                                        1995年5月18日 片瀬健治