指定された居酒屋にマドカと共に訪れると、すでに日向先生や生徒会仲間が宴を始めていた。
靴を脱いで和室に上がりこむと、上座にあたる一番奥に日向先生が座ってるのが見える。
「お久し振りです、先生」
アタシは日向先生の所に行って、軽く挨拶をした。
「おー!椎野か。すっかりご無沙汰だなー。お前、今何してるんだ?」
既にいくらかのアルコールが胃に納まっているのか、ちょっと顔が赤くなっている。
「東京で、そこそこのOLしてます」
「麻衣ねー、NYLONに勤めてるんだよ」
先生の隣に座っていた、元生徒会書記の中村陽子が口を挟む。
「えっ?あの、家電メーカーのか?」
「えぇ、まぁ・・・」
「生徒会の中での出世頭って感じでしょー」
きゃっきゃきゃっきゃと騒ぎたてる陽子を尻目に、先生は座を改めて言葉を紡いだ。
「椎野、久し振りだから俺の横で飲め」
「それ、会社だったらセクハラですよ」
「お生憎様、椎野にセクハラしようとは心にもないから安心しろ。
 あいつらとは良く会ってるけど、お前とは久し振りだろ。話したいんだよ」
有無を言わせない発言に、アタシはポカーンと口を開けてしまう。
「あー、分かりましたぁ。キャバ譲ばりにお注ぎしますよ」
「とりあえず、飲め」
ピッチャーのビールを片手で持ち上げて、アタシのグラスに注いでくれる。
「ありがとうございます。じゃ、いただきまっす。はー、美味しいっ」
「おー、いっぱい飲め」
「で、先生?」
「なんだ?」
「どうして、急にアタシまで召集したんですか?」
卒業して8年、機会は何度となくあったのにも関わらず、私には声は掛からなかった。
もちろん声は掛かっても、強制ではなかったので仕事を理由に遠慮してきたが。
それがどういう訳か今回だけは強制だった。
「・・・・・・・椎野、明日時間あるか?」
「先生?質問に質問で返してくるのはいかがなものかと思いますが」
「椎野に渡したいものがあるんだよ」
先生の顔は酷く真剣で、本当はこの飲み会は私を呼び寄せる口実だったというのが雰囲気で分かった。
「アタシに渡したいもの?何ですか、それ?」
「今は言えないな。明日、11時にウチに来い。そしたら、全て分かる」
そう言って、手元のビールグラスを一気に飲み干すと「奥さん待ってるから先に失礼するぞ」と帰っていった。
何だったんだろう・・・。明日、何が待ってるんだろう?