高校に入って初めて勉強する簿記は、理屈さえ理解できれば簡単だった。
片瀬先生の授業だから、ちゃんと授業を受けようと思った。
ちょっとだけ反発しているバカな自分も居たりして。矛盾したことをやってた。
授業態度は決して真面目ではなかった・・・と、今頃反省してる。
こんな結果になるなら、もっと先生の後姿も、声も脳裏に焼き付けておくんだった。


夏休み------------
私はテニス部に所属していたから、毎日練習に出た。
そして、先生は剣道部の顧問として、毎日学校に来ていた。
会えるのが楽しみで、午前練習だけなのに夕方まで学校に残ってた。
家が山の中ってのも、下校時間の理由だったけど。
炎天下の中を50分も自転車押して、帰れないもの。
幸い、私と同じ様に教師に恋する友達が居たから、2人で職員室に入り浸ってたっけ。
でも。結局、あの夏に先生と会話したことなんて、殆んど無かったな。

2学期が始まって、学級委員だった私は、少しだけ忙しい日常を送ってた。
学園祭という名の大イベントの為に。
学園祭が終わると、私達は12月の簿記検定に向けて勉強を始めた。
私達は12月と1月に簿記検定を受検しなければいけなかった。
県簿記検定と、全商簿記検定。
前者が12月、後者が1月。後者の正式名称は『全国商業高等学校協会主催簿記検定』。
1年生は3級合格が進級条件であり、卒業条件でもある。

検定前の1週間は課外授業が、強制的にあった。
過去問題を解くだけ。今までの授業さえ理解していれば問題は無い。
好きな人の科目で不合格にはなりたくなかった私は、その1週間は猛烈に勉強をした。
その頃だったと思う。
先生が私に言ったのは。
今でも私のちっぽけな脳みそから離れない言葉。
-------椎野は、俺のこと嫌いか?------------
今となっては、何の用事で行ったかさえも覚えていない職員室で、先生は私に言ったっけ。
あの時、私はなんて答えていいのか分からなかった。
好きな人に聞かれたのに、返事が出来ないもどかしさ。
先生は気づいてた?私が好意を寄せてたこと。
先生はどういうつもりで言った?真意は何?
先生にはどう映ってた?私という生徒は・・・・・。

3学期。担任が研修で1ヶ月留守にした時、毎朝のSHRは先生だったね。
担任には申し訳なかったけど、すごく嬉しかったのを覚えてる。
スキー教室があったり、バイク通学者への指導面接が先生だったり。
今もちゃんと覚えているのは、どうしてだろう。