10年前の5月。
私の片想いは、気持ちを告げる事なく終わった。
好きな人が突然、学校を辞めた-------という事実を残して。

私がその人を好きだと知ってた先生に、居なくなった理由を聞いても答えてくれなかった。
ただただ、言葉を濁すだけ。
あの人が居なくなっても、学校は何一つ変わらなかった。
私達の学校生活に何の変化も生まれなかった。
今まで、あの学校にあの人が居なかったように・・・。
私は、あの人が学校を去った日を知らない。



11年前。
私は、高校の入学式で学年担当の先生達を眺めながら、一番端っこの新し目のスーツを身に纏った人に恋をした。
それは紛れもなく一目惚れだった。
色白で、とてつもなく優しい目をしていて。
どこから見ても新任だって分かるその人は、事もあろうに、私のクラスの副担任だった。
うちの学校は商業高校で、商業科が4クラスのA~D組までと情報処理科が2クラスのE~F組。
この辺りでは偏差値も高く、情報処理科の入学志願者はそれなりに多かったりする。
そんな競争に勝てた私はE組の生徒になった。
入学式後の最初のHRで、あの人は緊張しながら自己紹介した。

---片瀬健治です。

カタセケンジ。年齢は22歳。担当科目は簿記。
新卒採用かぁ・・・。年の差は7歳。どう足掻いても追いつけない年齢差。
この恋が実って欲しいとか、そういう気持ちは無かったと言えば嘘になるけど。
教師と生徒の恋愛なんて、成立する可能性ゼロなんだから、何も考えないでいた。
でも。絶対に先生にこの想いを伝える・・・。卒業式に・・・。
16の私はそう決意した。浅はかだったと、今更ながら思う。
卒業するまで、この学校に居るって信じてた。
それが当たり前だと、あの頃の私は思ってた。