「うそ・・・」
自然と私の目からは涙が零れ落ちていて、その涙はもう、自分の意志でも止められなかった。
先生がアタシを?あの時の言葉を先生も覚えていたんだ・・・。

「椎野・・・?」
「先生は、知ってたの?」
「片瀬先生に相談を受けてたから知ってたよ。でも、第三者の俺が口を挟んで良いことじゃなかっただろ?」
「何もかも知ってたんだ?アタシ、先生に聞いたよね?片瀬先生の居場所とか」
「口止めされてたんだよ。椎野が高校を卒業するまでは、居場所を教えないで欲しいって」
ちょっとばつが悪そうに言う日向先生の顔を見たら、それ以上何も言えなくなる。
「片瀬先生に会いたいと思うか?」
黙ったまま、私は頭を縦に振った。
「会いたい・・・。ずっと、忘れられなかった。アタシ・・・、彼氏が出来てもどこかで片瀬先生の影を探してた。バカみたいでしょ?何年も前に居なくなった人の影を探し求めて・・・」
「・・・・椎野」
「ご、ごめんなさいっ。なんでだろう?涙が止まらないみたい」
楓ちゃんが私の隣にそっと座って、私の肩を抱き寄せてくれた。
「泣きたい時はいっぱい泣きなさい。この10年、忘れることが出来なかったんでしょ?」
「カエデちゃん、ありがと・・・」


片瀬先生があの学校を去ったのは5月18日だったんだ・・・。
あの頃、どうして気づけなかったんだろう?
この10年、アタシは多くの後悔を抱えて生きてきた・・・。
会っても良いのかな?
そんな疑問が生まれてしまう。


「椎野、今から会いに行くぞ!」
「アタシ・・・、会いに行っても良いのかな」
「片瀬先生はずっと椎野に会いたがってる。もう、2人に後悔はして欲しくない。今回を逃したら、いつ会えるか分からなくなるぞ」
それ以上、言葉を発しないで日向先生は私の手首を引っ張って玄関に向かった。


引っ張られたまま、先生の車に乗せられた。
何も口にしない日向先生の横顔を時々見ながら、アタシは久し振りの故郷の風景を眺めた。
今回を逃したらって、一体どういうことなんだろう?
アタシ、本当に会っても良いんだろうか?
片瀬先生の記憶にあるアタシはもう居ないのに・・・。
あー、アタシって矛盾してるかも。
昨日まではあんな会いたいって言ってたのに、いざ会えるとなると尻込みするなんて。
何を話したら良いんだろう・・・。
自分が何をしたら良いのか、正直、分からなくなってきた。