「無理に笑わなくていいですよ」

「無理してねえって」

「嘘つかないでください」

「……」



ふと相川くんは私から距離を取って黙り込んだ。

表情から笑顔が消える。

あれ、部屋の温度が下がった?そう錯覚するほどの冷えきった表情に息が詰まる。

……たぶんこれが本当の相川くん。

私が知ってる相川くんは、彼が演じてる一部の顔に過ぎないのかもしれない。

同時に触れてはいけない壁に触れてしまった気がした。



「大丈夫ですか、ストレス発散できてますか?」

「はけ口なんていくらでもあるから大丈夫」

「……誰かが傷つく方法はやめてください」

「その“誰か”が求めてるならよくない?」

「私はその質問に答えられません」



今の会話から、女性をはけ口にしてるのだと知った。

知らなければいいことを知ってしまった。

多少なりショックを受けて相川くんから目を逸らす。



「きいちゃんは俺に惚れないでね?責任とれないから」



愛想笑いとともに線を引かれる。

惚れるなと釘を刺すなら、思わせぶりな態度を取らなければいいのに。