「……どうしたの?」

「せっかくなら刹那と会ってあげてください。もうすぐ帰ってくるはずだから」



会いたいのに会えないなんて、どんなに苦しいことでしょう。

なぜ刹那が不在の時に家に来たのか分かった。

会ったらきっと泣いてしまうからだ。

それでも、我慢しないで会って欲しいと思ってしまった。

だって、次はいつ会えるか分からないのに。



「……優しい子。私の代わりに泣いてくれてありがとう」



壱華さんはそっと呟き、私を抱きしめてくれた。

その手つきがどこか刹那に似ている、やっぱり刹那はこの人の子だと思った。



「稀子ちゃん」

「っ、はい」

「稀子って、綺麗な名前ね。あなたによく似合ってる」



抱きしめる手をゆるめた壱華さんは、今度は私の手を握って微笑んだ。

綺麗な声に乗って紡がれる、言葉ひとつひとつが嬉しくて。