相川くんはギャップに弱い

「ええっ……だってこんな依頼初めてだから不安」

「じゃあ……強いて言うなら、ライオン以外」

「……なぜライオン?」

「勘のいいきいちゃんにはこれ以上言えない」



ライオン以外ということは、動物を描いてほしいってことですか?

考えて悩み抜いた私は、1週間後にようやくラフを描き始めた。

構図が決まってラフができたら普段は連絡するんだけど、お任せとのことだったので好き勝手描かせてもらうことに。

単純にカッコイイからという理由で、彼女を護るように黒い狼も一緒に描くことにした。



「え……」

「なんですか?」

「その狼何色にすんの?」



大きなキャンバスに描かれた美女と狼。

それを見た刹那はぎょっとした顔をした。



「黒ですよ」

「きいちゃん、もしかして依頼主誰か分かった?」

「いえ、なんとなく狼です」

「あっそ……」



なんとなくだと伝えたら拍子抜けした顔になる刹那。

その顔にピンと来たけど、野暮なことは言わないことにしました。

だって久々の大作になる予感がする。

受験が終わる来年3月まで、こんな大きなサイズの絵を描くのは最後になるかもしれないし。

もちろん絵は描き続けるけど、依頼募集は停止かな。

とにかくこの作品に心血を注ごう。

私は姿勢を正してキャンバスに向き合った。