振り返ると、黒いマスクをした男が私目がけて走ってきている。

……やっぱり勘違いじゃなかった!

逃げなきゃ、走らなきゃ。

恐怖に支配される頭で必死に足を動かして目的の店に向かう。

入り組んだ路地裏の道にたたずむ青い扉のお店。

あった、ここがondineだ!

階段を登って扉に手にかけたその時、後ろから伸ばされた手によって扉にかけた手を引き剥がされた。



「てめえ、逃げんなよ」

「離してください!」

「騒ぐな!」



あと少しだったのに……!

手に掴まれ、暴れて必死に抵抗したその時……お店の扉が開いた。



「店先でうるせえな」



中から背の高い男性が出てきた。

黒髪に、ほの暗い照明の下でもはっきり分かる目鼻立ち。

どこか中性的で目が離せないほど綺麗な人。

その目は畏怖を覚えるほど美しく、私も男も一瞬動きを止めるほど。

この特徴的な眼差し── 刹那くんとよく似てる。