ノート




教室にはまだ、誰もいなかった。
河辺はクラスの日直らしい。俺は一人で屋上のある階段に向かった。

嫌いな人を少しでも好きになれたら、汚されたノートや俺の人生を少しでも好きになれるかと思った。
許せると思ったのに。

実際にやっていることは、アームカット。

 なっちゃんも突然好きだなんて言うから、俺の今日の脳内の容量はすでに限界になりかけていた。
あまり笑える状態ではなかったけど、よく、こういう行為をする人が、それを後ろ向きにとらえないで欲しいと言った意味は今ならわかる気がしていた。

 軽くでも、ただ純粋に心地良いのだ。
跡が深くなる前にはやめなくちゃな、と頭の片隅では考えているけれど、果たしてやめられるのかはわからない。
ポケットから、持ってきていたハサミを出して、手首に当ててみる。
血が伝いはじめるとやっと我に返って、でもどこか気分が前向きになる。
血が、垂れたら拭くにも厄介だからあまり切りすぎないようにして、放置されてる椅子に座りながらハンカチで腕を押さえた。

新しい学校生活。
何が変わったってわけでもないけど、新たな刺激を手に入れただけでも充分だろう。
 ノートが本来の役目を果たさなくても平気そうだ。
 いかにも喧嘩して傷をつけた風に均一じゃないようにつけた傷が、じくじくと痛みながら、俺の新しい生活を歓迎していた。