「水系とか、炎系じゃないかな」
「モンスターじゃないからね」
「お前が、俺のものならよかったのに」
え?
と顔をあげて彼を見たけど、なんでもなさそうにされてしまった。
家に帰る頃には真っ暗だった。
帰宅後すぐ着替えて風呂に入って、それから母さんと夕飯を食べて部屋でノートを開いた。
けど、手が震えている。
持った手のひらから、全身が冷えていく感じで、今まであんなに抱き締めて眠っていたノートとはもう思えない。
俺の人生は、あいつのプロットみたいなもんだっただろうか。
癖で、書かなきゃ、と、ペンを手にして紙面に滑らせるけど、吐き気と目眩が来るだけ。
自分が生きている、という感じがしなかったしなんだかいろんな感覚が無いような気がした。
試しに、鋏を腕に当ててなんどもすっ、すっ、と引いてみた。
「いたくない……」
あ。なんだ、全然切れないじゃんと思って何度も動かしてみたら、腕がまるで鋼にでもなったように錯覚した。
「すげぇ、うわ、まじで」
全然痛くないことが不思議で面白くなって、何度も何度も、腕を傷つけた。
少しラグがあってからじわっと、下手な裁縫の波縫いみたいに不規則な血の塊がにじんできた。
「切ったらこうなるんだ」
なんだか他人事みたいに感じる。
さっきのは浅かったからあまり綺麗に血は出なくて、ただ不格好に怪我をしたって感じ。
じわじわと、ひとつずつ赤い花みたいに皮膚に咲いていく血のラインに、きれいだなと感じたけれど、同時になんだか、このままじゃエスカレートしそうだ。
なんたって征服欲が満たされる。
俺をこんなにしているのは俺自身なんだと、証明してる気分。
決して河辺とかカンベとか、あと知らない作家や芸人じゃない。
他人にあんなに生活に入り込まれたことが無かったからか、まず、見ず知らずのやつが俺の邪魔をしたということが悔しくて。気がついたら、少しずつ傷を深くつけていた。気分がすっきりして、その日はノートじゃなくて、止血にいそしんで終わった。



