他に……他にないか。
妖精が出てくる話、
料理の本。
俺がノートに使っていた仮名そのものが数多く主人公として出る話。
本のなかには俺の名前そっくりな、ペンネームまであった。
「なんだ、これ……」
6割、いや8割くらいが気分が悪くなる棚だった。
変わった仮名にしたってまるであいつに晒されたことを永遠に世間に刻むような名前は悲しくなる。
世界はいつまでも、俺のトラウマの引き金を世に残すつもりなのか。
なによりも、なっちゃんが。
一番信じていた彼がこんな棚を作っていることに裏切られた気持ちでいっぱいだった。
俺が傷つくものを、あんなに、ひとまとめで並べてあるなんて……
いや、なにより。
なっちゃんに俺のトラウマをフィクションに混ぜたとはいえ、あんな風に知られていることが残酷でたまらない。
河辺に影響を受けたのかなんなのか知らないけれどうして俺がこんな……
「カンベカナト、好きなの?」
本をにらんでたら、後ろから声がした。
違うよ、とか、酷い、こんなの捨ててくれよ、が頭のなかでいっしょくたになった俺には、言葉もなく、なっちゃんにしがみついた。
うぁああん! ひっく、……っ、ああああ。
情けない声が響きわたってる。
「どうした」
なっちゃんはうろたえてて、それにまた、なぜか腹が立った。
「どうしたんだ、いったい。お前の好きなロイヤルミルクティあるけど。飲もう?」
背中をさすりながら、なっちゃんが苦笑いするから、俺はまた泣いてしまう。
理由は聞かないで欲しい。
でも、悲しいということは、伝わって。
「河辺に会ってから、様子がおかしいぞ」
「……」
俺を抱き締めたまま彼は言う。
「これだけは教えてくれ。河辺が原因か?」
「だけじゃ、ない……」
あらゆる意味で答える。今のこの悲しい気持ちはもはや彼だけが原因でなくなっていた。



