球技大会から気づけば1週間。

高橋くんへの想いは高まるばかりで…。

どんどん好きになってるんだよね。


そしてもっと彼のことが知りたくなっている自分がいた。


ある種の高橋くんオタクなのかもしれない、私。




「あっ!佐藤くん!!」
「羽柴さん……はあ。今度はなーに?」
「高橋君の初恋について教えて欲しいの!」
「えっと、、」

なぜこんなことになっているかというと…


私の頼みの綱である恋愛指南書にこう書いてあったからだ。

『男は初恋の人の面影を追いかける!』

初恋…高橋君の初恋の人ってどんな人なんだろう。

私と似てたらなぁ、なんて想像しちゃって。

そんなことないって分かってるけど!!

気に出し出したら止まらないのが乙女ってもので……


初恋は叶ったのかな?

ってかそもそも初恋っていつ?

今でも初恋相手と会ってたりしないかな?

なんなら今付き合ってるとか⁈


嫌な想像をして、なんだか悶々としてなんにも手につかない。

「そうだ!佐藤君に聞けばいいじゃん!!ってなった訳ですよ!」

「僕を答案か何かだと思ってる⁇」

「えへへ」


好奇心に人は抗えないもので、気づいたら初恋相手のところまで足を運んでいた。

「A組の子なんだけど、一緒に行こうか?名前だけ言っても分かんないもんね。」

「え、同じ学校なの⁈ってか、やっぱ初恋は済んでるだ…。」

私たちはそう言って2人でA組を目指した。


この学校は生徒数が多く、クラスは人学年で8クラスほどある。

入って2年で全校生徒を把握できるわけもなく、名前を教えてもらっただけでは全く分からなかった。

「英莉子…。なんか強そうな名前だね。」

「あはは。気も強いよ?」

「え、そうなの⁈」

「うん笑笑」

佐藤君は案外冗談も言う人だということを知っている私は近頃、佐藤君の発言を魔に受けないように注意している。


「その、莉子さん、、は。どんな人っていうかなんていうか。今は高橋君のことどう思ってるーとか分かる⁇」

「えー僕に聞かれてもなぁ」

「だって、幼馴染なんでしょ?」

「うーん、幼馴染歴は莉子と奏太の方が長いしなぁ。僕よりも奏太に聞きなよ笑」

「1番むり!」

だめだ、話がどんどん通じなくなってきた。


「いやさ、僕ばっか頼ってないでもっと奏太本人にアプローチした方が良いと思うよ、って話。」

「えっと…」


さっきまで私をからかってきた佐藤君が真顔になる。


でも、本当のことだ。

私は高橋君に恋してるんだからもっと高橋君と向き合うべきなんだ。

なんだか胸が痛い。

「席どの辺だったっけな。」


そんなこんなでいつもの間にかA組に着いていた。

英莉子、どんな子なんだろう。



「ね、羽柴さん。なんか、入りづらいね。」

「え⁈あ、、そう、だね。」

妄想をやめ、我に返る。

教室の前方のドアのところには、女子3人組がだべっている。

それを避けて教室に入って行くことはどうやら無理そうだ。

彼女たちは話に夢中で私たちのために空間を空けようとしてくれないのだろう。


「なんか、話しかけづらいね。」

「羽柴さんってA型?」

「うん。そうだよ?」

「僕もだ。」

A型の宿命とでも言いたいのだろうか。

話しかけるタイミングを伺う私たち。

ここに辿り着いてから、体感では2分ほど経っている。

だが、現実は30秒も経っていなかった。



「ねぇ、そこ邪魔なんだけど。」

ピシャリと何かに打たれたような衝撃がその場に走る。

先ほどまでゲラ笑いをしてはしゃいでいた女子たちの顔色が変わった。


「ごめん…」

女子たち3人をはじに寄せ、教室の向こう側から気の強そうな黒髪の女の子と、おっとりとした茶髪の女の子が現れる。


「莉子!」

佐藤くんが言葉を発した。

女の子に話しかけたのだ。
黒髪ツインテールの女の子。
つり目で、目が大きい。
そして、

かわいい。


待って


はっ!

あ、あの子だっ!!

高橋くんが球技大会のときに仲良さそうに話していた女の子。


その後の出来事が幸せすぎて、すっかり忘れてた。


まさか、高橋くんの幼馴染で初恋の人だなんて!


そんな……勝ち目無いじゃん。


めちゃくちゃかわいいし…!


「春馬?どしたの急に。」

「いや、えっと。あぁ、今日一緒に帰ろうよ。」

「奏太もいる?!」

「あーそれは、どうかな?はは、、。」

「奏太いないなら意味ないじゃない。」

「それはなんか僕に失礼じゃ?」

「なによ、私が奏太一筋なのは前からよ?」


やっぱ、この子はまだ高橋くんのこと好きなんだ。


ってか、この状況気まずすぎる……。


耐えられない。


「さ、佐藤くん。ありがと、私もう行くね。」


「え?羽柴さん??」


思わずその場から立ち去る。


私の今日の髪型は、ツインテール。


高橋くんの初恋相手、英莉子ちゃんと同じツインテール。


髪型だけが同じで、高橋くんが寄せる想いは正反対。


初恋の相手が、同じ学校で、相手があんなに高橋くんのこと好きなんだから。

きっと、高橋くんだって莉子ちゃんのことが好きってことだよね。


もう彼女確定じゃん。



「ごめん、莉子。じゃあね!」


「ちょっ、あの子だれ??」


「知りたい?」


「なにその意味深な顔。」


「いずれ分かるよ。」


「はぁ?」




「羽柴さん!良かった。いた。」


「え?佐藤くん??」

「どしたの?急に行っちゃったからびっくりしたよ。」


「ごめん。なんか、あんな可愛い子が初恋相手とか勝てっこないなって思ってさ…!」


なんで佐藤くんにこんなこと話してるんだろう。


あの莉子ちゃんと幼馴染なんだったら、きっと佐藤くんは私より莉子ちゃんを応援してるよね。


私の話も、全部私の夢を壊さないように聞いてくれてたんだろうな。


「ごめんね、気遣わせちゃって。佐藤くん、もう無理して私の話聞いてもらわなくて大丈夫だよ?板挟みだったよね。」



「いや、そんなこと…。」

「私もしかして邪魔者だった?なんか笑えるね。」

「待ってよ。なんか誤解してる。」

「誤解?」

「奏太は別に莉子と付き合ってないし。2人がお互いのことどう思ってるかなんて分かんないよ?」

「え、付き合ってないの??」

「うん。それに、奏太が誰のこと好きだとか、莉子のことどう思ってるかは羽柴さんが奏太に聞いてみたらいいじゃん。」

「そんな、無理だよ。彼女じゃあるまいし。」


「とにかく、勝手に思い込んで諦めるなんて良くない!」


佐藤くんの声が少し大きくなった。

なんだか自然と応援されてる感じが伝わってくる。


「羽柴さんはもっと自分に自信持ちなよ。」

「あ、ありがとう?」

「僕は羽柴さんのこと密かに応援してるから。」

「なんで?!」

「人の恋が叶う瞬間がこの目で見たい。羽柴さんの恋が叶ったら、その……。」

「その……?」


「な、なんでもない!!忘れて!」

「え、どういうこと⁇佐藤くん?」

でもなんで、莉子ちゃんじゃなくて私のこと応援してくれるんだろう。

「佐藤くん、変なの。」

「いやあ、なんか莉子はあんまりかわいくないってこと!」

「いやいや、めっちゃかわいかったよ?!細くて、色白で……。」

「だって、アイツ気強いんだもん。こわいよ。」


佐藤くんの応援のおかげで、高橋くんのこと諦める機会を逃してしまった。


「じゃあ、莉子ちゃんはライバルってこと?」

「まあ、そうなんじゃない?さすがに奏太のこと好きなの分かりやすかったよね。」

佐藤くんが笑う。

良い子ではあるんだろうな。莉子ちゃん。


幼馴染だからこそ、怖いとか気が強いとか少し棘のあることも言えちゃうんだろうな。

それだけ、仲が良い証拠なんだな。


「羨ましい。」

「なにが?」

「幼馴染。」

「いや、そんかいいもんじゃないけどなぁー。」

「佐藤くんと、高橋くんと、莉子ちゃんすごい仲良さそう。見えないもので繋がってる感じ。」

「まだ3人でいるとこ見たことないよね?」

「ないけど、分かるの!」

「そんなもんか?」

「うん。分かる。分かるよ…。」


髪型を変えて、見た目で高橋くんの気をひくだけじゃ足りない。

幼馴染がライバル、だなんて。

強敵すぎる。



「待って、高橋くんは莉子ちゃんのことどう思ってるの??なんか、佐藤くんの言い回しだと莉子ちゃんの片想いみたいに……。」

佐藤くんがぎくっとしている。

「しっーー!!口がすべちゃっただけだから!秘密にしといて!」

「佐藤くんって案外口軽い?」

「違うよ、今回はたまたま!まあ、その僕の言ってることは嘘かもしれないよ?奏太は莉子のこと好きかもしれないし。奏太の気持ちは奏太にしか分からないし!」


「急に口数多っ!」

思わず笑ってしまう。

身長と顔立ちは可愛いくて、お調子者で一見深いことなんて考えてなさそうなのにどことなくいつ冷静で達観してるように見える佐藤くん。

だから、今こうやって取り乱してるのがなんだか新鮮だ。


「でも、本当に奏太は莉子のことどう思ってるんだろ……。」

「え?知らないの??」

「まあ、本当のところは実は知らないんだよね。あんま2人で恋バナとかしないし。」


「そうなんだ。」


「それに、奏太ってなんか本心が分かりづらいんだよね。」

「高橋くんの本心。」

「莉子も相当振り回されてるぽっいしね。」

そっか。


頑張るしかないじゃん。

もっと、もっと高橋くんに見てもらえるように。

ライバルの莉子ちゃんに負けないように。

だから……。

もっと、近づかなきゃ!


とは言ったものの……。

高橋くんと接近するチャンスなんてそうそうなくて。

休み時間はいつも男子といるから話しかけるタイミングもない。

放課後は、お互い違う部活で当然一緒にいられるわけもない。

「はあ……。」

部活終わり、大きなため息をついて昇降口を出る。

「あれ……。」

高橋くん!!

そこには校門から出ていく高橋くんの姿があった。

ラッキー!!

思い切って話しかけよう、かな。

そうしなきゃ、損だよ。

高橋くんを追いかける。


胸が高鳴る。


ああ。
やっぱ無理かも。
緊張してきた。

どうしよう。

思わず立ち止まる。

高橋くんが遠ざかっていってしまう。

「奏太!おつかれー」
「お、佐藤!待っててくれたのか?」

「まあなー。」

高橋くんの隣に佐藤くんが現れる。

仲良いんだな、二人。

「ちょっと!私も、待ってたんだけど!!」

「おー。」

「奏太、反応うすすぎ。」

「いつもこんなんじゃん。」

「そ、そうだけど!そんなことわざわざ言わないでよ春馬―。」


3人のテンポの良い会話が聞こえてくる。

3人でいるところ初めて見たな。

いいなあ。
普通、漫画や小説の主人公が幼馴染いるパターンでしょ。

私なんか、幼馴染でもなんでもない。ただのクラスメイト。

「……こんなに好きなのに。」

「好きな気持ちは負けてないのに。」
関係性が敵わない。

どれだけ歩いても、駅の方向が一緒だから3人は私の視界から消えてくれない。

切ない気持ちだけが募っていく。


好きな気持ちも消えてくれない